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幸福に生きたい不幸なあなたへ  作者: 木鳥
一章・鈴音
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   悪意のない狂気②

「す、鈴音。どうして泣いているの? 私でよければ力に……」

「無理だよ! 全部思い出しちゃったんだもん! お願いだから近づかないで!」


 罵声を浴びせられてアリスも泣きそうな顔になる。俺が来るまでに暴れていた鈴音をアリスが何とかなだめようとしていた光景が目に浮かぶ。


「鈴音。思い出したって、何をだ」


 刺激しないようにゆっくりと尋ねると鈴音は俺と視線を合わせた。


「思い出した? えっと、お父さんの、ああ、男の人! 離れろ!」


 今度は急に気を動転させて、最初見たときのように布団にくるまってしまった。

 情緒が、安定していない。


「落ち着け! 俺は味方だ!」

「近づくな! 私に話しかけるな! あ、ちが、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 声を荒らげたと思ったら、急に震えだして謝り始めた。


 見て、いられない……。


 多分今俺はひどい顔をしている。軽蔑でも差別でもない、変わり果てた鈴音を見て一瞬でも引いてしまった自分への嫌悪感からだ。


「鈴音! 落ち着いてくれ!」


 近づこうとすると更に鈴音は縮こまって頭まで布団に入ってしまう。


「優作」


 肩に手を置かれた。後に続いたのは友華の声。


「それ以上は、鈴音を壊すわ」


 何も反論できない。


 頭を抱えて俺は部屋を出る。続いてアリスと友華が。三人で最後に鈴音を見るが、そこには元気で快活な少女はいなかった。

 向日葵のようなハツラツさはなく全てに怯えていて、触れれば壊れてしまいそうな儚い花弁のようだ。


「鈴音。今はゆっくり休みなさい」

 

 友華はそう言ってドアを閉めた。



――――――――――――――――――――――



 鈴音の部屋から出た後、俺たちは施設のリビングで木製の椅子に腰掛け、机をはさみ明智さんと向かい合うように座っている。


「鈴音が……またですか。本当にありがとうございます、みなさん」


 最初に先程の状況を聞いて深々と頭を下げた。


「いえいえ、私たちは何も出来ていません。出来る限りのことはしてあげたいのですけど」


 友華が顔を上げるように促す。


 串木野先生はアリスに軽い打撲のようなものがあったので病院に連れていってくれている。俺たちが到着する前、鈴音がアリスに殴りかかったそうだ。

 子供たちが怯えていたので、アリスは鈴音の部屋のドアを閉めて二人きりになりしばらくしてから肩を押さえて出てきたらしい。


「それで、俺たちが鈴音の支えになれるように今は情報がほしい。鈴音の過去について、俺たちの知らない事を」


 俺の言葉に明智さんは表情を曇らせる。自分を責めるような、そんな顔。

 今は落ち着いている鈴音のいる二階の方に視線を送り、何かを決意したかのように口を開いた。


「わかりました。本来は個人情報を漏らすのは御法度なのですが、そんなことを気にしている場合ではないですね。話しますよ、鈴音の過去を」


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