リアルとフィクションの相互作用③
天才にして美麗衆目。強い意思を持ち、誰よりも確固たる自分を見つけているのはこの学校の中でも友華くらいだろう。こいつが何かに悩む姿なんて滅多にお目にかからないしな。
「そうだな。俺はお前がアリスの事を自分から信じるのが意外だけど」
オカ研の部長だが、おそらく誰よりも否定的にその存在を捉えているのは友華だ。非現実的なものに興味関心があるとは思えない。誰よりも幽霊怖がるし。
「そんな風に思っていたの? 残念ながら私はお前の想像するようなテンプレ秀才キャラではなくってよ。非科学的なものも存在すると思うし、当然幽霊やUMAも信じているわ……超能力もね。いつもの反応は、その、そういった話が苦手なだけよ……」
少しだけ頬を赤らめていた。完璧超人を目指しているからこそ苦手なものがあると、人前で認めるのは癪なのだろう。
なんというか、この部活に入っている奴らは揃いも揃って不器用だと思った。
「はは、良いネタを仕入れたな。今度鈴音にも教えてやるよ、嫌いじゃないってわかれば喜ぶぞ」
「ば! あの子に知られたら私は見たくもない心霊映像を永遠に見せられるわ! それだけはやめなさい……」
本気で動揺している。
しばらく笑って会話するのだが、何故か友華は次第に元気を無くしていった。いや、些細な変化なんだが、声のトーンが落ちているように感じた。
「どうした? 何か気に触ったか?」
いいえ、と首を横に振る。
「いいえ、違うわ。少しだけ気になることがあるの。脱線してたけどアリスの事を聞いたのはそのためよ」
「気になること……」
友華は手元にあった資料に目をやる。どうやらあれはアリスが元幽霊だったと想定して集めていたもののようだ。
「ええ、しょうもないことよ。幽霊が人間の体に戻るなんて話は正直ありふれたもの、意外性なんて無いわ。でもその物語の多くは悲劇の結末。最後には折角手に入った人の体を手放して死後の世界に帰るなんてざらにあるわよ」
「不安になること言うなよ。アリスは元々生きていたんだ、幽霊になってたのもあいつが元の身体に戻ることを拒んでいただけだしな」
俺の返答に友華は難色を示す。
何かが府に落ちていない、そんな表情。
「ええ、もちろん前向きに考えるのが一番だとは思うわ。でも、参考論文なんて存在しないから概念的な捉え方しか出来ないのだけれど、そんなに作為的に戻れる程体を得るのは簡単なものなのかしら……。童話だって人魚は足を得るために声を失う、命を得る試練として嘘をつく人形は鼻が伸びるものよ。」
「……すまん、つまりどういうことだ」
「代償無しに好き勝手出来るなんてこと、世の中には早々無いってこと。お前と出会って実質命を得たも同然のアリスは、その代わりに何を失っているのかしらね……」
そんなこと考えもしなかった。
友華の考えは意外にもかなりオカルトめいたものだ。
「そんなこと……、代償なんて何もないだろ」
「物語ではそうなるんだもの、現実には影響しないと私も思いたいわ。でも、幽霊なんてそれこそフィクションの出来事よ。それが存在するのならば、フィクションがリアルにどれだけ深い関与をするのか気になるのは当然。もしくは一部のフィクションは作り話ではなくて、どこぞの誰かさんの体験を模倣したものなのかもしれないわよ。フィクションの一部が実在していて都合の良い部分だけが現実に反映されるなんてこと、それこそあり得るのかしら……」




