リアルとフィクションの相互作用②
急にフルネームで呼ばれるものだから驚いてお茶を吹き出しそうになった。
「どうしたんだよ改まって。前も言ったが仲が良いだけの友達だ、それ以上でも以下でもない」
「ええ、その点は信用してるわ。問題はその過程、何があなたたちをそんな関係にしたのか。私はそれを聞きたいの」
怪しい笑みが俺を捕える。
友華はたまに俺のような凡人の想像からさらに向こう側まで思考して、少ない情報を元に物事の確信を見つけてしまう。
授業が退屈だから受けないと豪語し、それでも文句を言わせない程の成績、そして完璧に計算された出席数で数字上の評価だけは獲得しているのだ。間違いなく秀才、天才の部類に入る人間。
それに対して凡人の俺では、天才の考えていることは普段は理解できない。でも、今回は。
何となくその意味がわかった。
「もしかして気づいているのか? アリスのことを」
アリスと出会った時あいつは幽霊だった。正確には死のうとして昏睡状態に陥っている生霊の状態。
そのアリスを説得するために文字通り命を費やしたあの夜は俺の脳裏に鮮明に焼きついている。
友華はそのことに気づいているのかもしれない。
「そうねえ、今のところは半信半疑だけれど。この前アリスの両親から聞いたわよ、一年間の昏睡状態からあの子が目覚めたのはお前が初めてお店に来た日だったって。そして、その時期にお前はある問題に悩んでいたわよね。たしか、通学路の地縛霊だったかしら?」
ああ、これはもう気づいている。
非科学的なことを信じそうなタイプではないが、この顔は何かを確信している表情だ。
「勿体ぶらずに結論を言ってくれ。俺は別にその事を隠そうとしてた訳じゃない。信じてもらえないだろうし、必要がないと思ったから言わなかっただけだ」
「あらそうなの? じゃあ、結論から言うと、その地縛霊がアリスだったんじゃないの? 優作は何かしらの悩みを抱えて、昏睡状態に陥ったままの眠り姫を目覚めさせた王子様。そんな役回りかしらね」
すらすらと、まるで参考書を読んでいるかのように自分の見解を語る。
本当に友華はすごいと思う。
数少ない情報からそこまで推察できるのか……。
「だいたい間違ってない。アリスは俺がお前に相談した幽霊だった。でもな、勘違いしないでほしいが」
「今のアリスは普通の人間、よね。安心しなさい、私はあの子に対して何か接し方が変わるようなことしないわ」
俺の話を聞いて自分の中で満足がいったのか、珍しく何も企んでいなさそうな純粋な笑みを浮かべる友華。口元に手を当てて可笑しそうに笑っていた。
「ふふ、面白い話もあったものね」
いつもがあれなのだが、改めて見るとやはり友華はかなり整った顔立ちをしている。
学年は一つ上なのにそれを感じさせないほどフレンドリーに接してくるし、気にくわないことははっきりと拒絶する。
天才にして美麗衆目。強い意思を持ち、誰よりも確固たる自分を見つけているのはこの学校の中でも友華くらいだろう。こいつが何かに悩む姿なんて滅多にお目にかからないしな。




