十七話・リアルとフィクションの相互作用
「ええと、鈴音さんは今日諸事情によりお休みです。」
鈴音の実家を訪れた三日後。
月曜日。鈴音は学校を休んだ。
理由は、父親の死。
詳しい事は分かっていないが、一人暮らしで持病も持っていたので亡くなってから誰にも気づかれずに放置されたのを俺たちが見つけた可能性が高いそうだ。
「その、帰ってきたらいつも通りに接してあげてくださいね」
どこかから情報が漏れており既にクラスメイトはその事を知っていた。同級生の親が孤独死していたという事実を。
「もちろんです! 任せてくださいよ、はっはっは!」
大門寺が悲しい表情を浮かべる先生を励まそうとしてか、いつも以上に明るい声を発する。しかし、それは悲しく響くばかりであった。
文化祭まで残り五日。六日後には鈴音が大勢の人の前で歌う。
誰よりも元気な少女がいない教室は一人欠けただけとは思えないほどに、暗く陰鬱な雰囲気が流れていたように感じた。
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「よ、友華」
昼休みは屋上で一人で食べたので放課後になって始めてオカ研を訪れる。
そこにはいつものように部長がふてぶてしく座って、何かの資料を見つめていた。
「あら、いらっしゃい。来てたのね」
「おう、孝宏は休み。少し刺激が強すぎたらしくてな、明日には来るそうだ」
俺が鈴音を介抱して外に移動させている間も孝宏は電話しながら死体のある部屋に居た。少なくとも俺よりは鮮明に生まれて初めての死体を、それも腐りかけのものを見てしまったのだ。
精神的にキツいものがあったと思う。
「そう。お前は休まないのかしら?」
「はは、そうしたい気持ちはあるけど、昼は母さんがいるからな。学校の方がましだよ」
「……そういう自虐は好みではないわ」
不機嫌そうに友華が俺を見る。普段なら言わないようなことだが気づけば口から出てしまっていた。俺も相当参っているな……。
「アリスは今日鈴音のところに行くってよ。部活には来れないけど、あいつなら少しは鈴音の力になってあげれると思う」
自分の失言を忘れてもらうためにアリスの話をしておく。
最近誰よりも鈴音の近くにいたのはあいつだったし、何よりかなり気が回せる。会話が出来なくても傍に寄り添い優しく見守ってくれそうだ。
「ふふ、それなら安心だわ。今日の部活はお前と私の二人きりっていうのだけが心外かしらね」
「言っとけ、お茶もらうぞ」
ため息を吐きながら適当に返す。
戸棚から茶葉を取り出してコップに入れた。そういえばこの作業はいつもアリスがやってくれてたな。鈴音が舌を火傷して涙目になったんだっけ。
「そうだったわ。私はお前に聞きたいことがあるの」
ポットからお湯を注いで席に着くとそのタイミングを待っていたように声がかかる。
俺は一口飲む前に反応した。
「聞きたいこと? 鈴音の父親を見つけた時の話は孝宏がもうしただろ。あいつが現場の情報は一番よく知ってるよ」
そう言ってお茶を飲む。
しかし、友華は無言だった。肘を机にのせて面白そうに俺の様子を眺めている。
「違うわ。私が聞きたいのはもっと別のことよ」
「別のこと? 何か知らんがもったいぶらずに教えてくれ」
「あら、からかいがいのないこと。私が興味を抱いてるのはお前についてよ、正確には山元優作と上赤アリスの関係。かしら」
全てを見透かしたような目で見つめられる。
急にフルネームで呼ばれるものだから驚いてお茶を吹き出しそうになった。




