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幸福に生きたい不幸なあなたへ  作者: 木鳥
一章・鈴音
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   壊れる日常③

「じゃあ、俺と孝宏がついてくから親父さんのところに一緒に行くか?」


 鈴音に親を呼びたい気持ちはあったので、俺から提案をさせてもらう。鈴音の父親は普段は温厚らしいが酒癖が悪くしかもアル中なので家庭内での暴力が多かったらしい。


 それが鈴音が施設に入る原因だったのだが、役所の人がたまに家を訪ねに行っても改善の様子は見られないという話を以前鈴音から聞いた。自分だけで不安なら男が二人ついていけば安心するだろう。


「いいよ、私の問題だから気にしないで!」


「関わらない方が気になる。お前の為じゃなくて自分の為に付き添いたいんだ」


「おわあ! そう来るの!? うう、何か反論を……」

「鈴音は嫌なの?」


 アリスからの援護射撃が加わる。


「嫌ではないけど……」


 指を組んでわちゃわちゃと遊ばせる鈴音。そして、吹っ切れたようにぱっと顔を上げた。


「うん! 決めたよ! お願いする、私と一緒に家に来て!」


 いつもどおりの元気な鈴音が、笑みを浮かべて了承してくれた。







 オカ研の部室にて。今は孝宏と友華が机を隔てて会話していた。


「さてと、友華ちゃん」

「わざわざ話だなんて、何の用事かしら?」

「実は優作と一緒に鈴音ちゃんの家に行くことになったんだ……」

「へえ……。それで、止めないの?」

「僕は止めないよ、鈴音ちゃんがもう決心してるから」


「そう……。こんなこと言うのは恥ずかしいのだけれど、私は止めたいわ」


「ふふ、友華ちゃんもだいぶ丸くなったね」

「その目やめなさい。ほんっと二人の時だけは、いつも生意気よね」

「まあね。それでさ、今のままだと二人もついてくるんだ。もしあれが本当だったらアリスちゃんには少し酷だから、何とかできない?」

「はあ、今回は言っても聞かなさそうね」

「うん。もしそうなってたとしても、鈴音ちゃんなら大丈夫だよ。多分ね」

「そこは自信を持って頷いて欲しいものね。まあ、そこまで言うなら良いわよ。文化祭前っていうタイミングが不安ではあるけれど」

「こういう時だからこそ、僕は会うべきだと思う。結末がどうなっても」

「お前、実は私よりも厳しいわよね。人でなし?」

「最悪の時は、そうなるかも」

「まったく……、そんな顔はやめなさい。アリスは引き受けるから、鈴音のことは任せるわよ。そして結果は伝えなさいね。必ず」

「ありがとう。じゃ、行ってくるよ」

「ええ。……気をつけなさい」





―――――――――――――――――



 放課後。


 俺は鈴音、孝宏と三人で鈴音の家に向かっている。


「アリスちゃんは来なかったんだね?」

「うん、なんでも友華ちゃんが文化祭の衣装を着せたいとかで」

「うわあ、大変そうだね……」


 おそらく大量の服を試着させられてるアリスを想像して苦笑する鈴音。


 本当はアリスもついてくる予定だったが、放課後に友華からメールを受け取ってから足早に部活に向かって行った。申し訳なさそうな顔をしてたがむしろ文化祭当日に接客をするための衣装決めなので、それをやってくれるのはありがたすぎる。


「友華も張り切って準備してるだろうな。明日は鈴音の番じゃないか?」

「ええ! 友華ちゃんの洋服選び長いから疲れるんだよ!」


 何度か休日に友華と買い物をしたこともあり身に染みてその長さを理解してるようだ。猫のように肩を丸めて難しそうに眉を寄せた。


「あ、見えてきた。あれがお父さんの家!」


 学校から徒歩二十分。


 閑静な住宅街に木造の平屋が見えてくる。両隣も平屋だが、どちらも新しいコンクリートの家なのでそれに挟まれた木造建築は妙に浮いているな。


 家の周りには石壁があり玄関前の部分には胸程度の位置まである黒い門がついていて郵便受けもそこに配置されていた。


「これが、鈴音の家……」


 思わず口に出てしまう。


 木造の壁は素人目に見ても劣化しており、強い風が吹いたらガタガタ揺れそうなタイプの家だ。屋根と壁の間には蜘蛛の巣が張っていて失礼ながら近所の心霊スポットになりそう、なんて印象を受ける。


 郵便受けにもチラシが溜まっていて口から溢れ出ているほどだ。


「優作」


 今は親と離れて施設で暮らしている鈴音の手前。目の前の家を鈴音の家と呼んでしまった俺の失言を孝宏が肘で小突いて注意してくる。


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