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幸福に生きたい不幸なあなたへ  作者: 木鳥
一章・鈴音
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   文化祭準備③

「ごきげんよう、オカ研の皆さん! よくも私の可愛い部員を脅してくれましたわね!」


 バーン、と効果音の見えそうな勢いで友華を指さした。

 既に訪問を予期していたからだろうが、友華は驚いた様子もなく頬杖しながら返答するのだった。


「別に脅していないわよ、人聞き悪い。相変わらずねえ、料理研究会部長の森川節子さん」

「違うよ友華ちゃん! 山海だよ!」

「林海じゃないか?」

「林川だって、みんな失礼だな」

「山川よ! 山川節子! 高貴なる私の名前を間違えるとはどういう了見ですの!?」


 早速息を荒げるのは、二年にして料理研究会の部長山川節子だ。謎のお嬢様ムーブをかますが、実は一般家庭の出なのではともっぱら噂の恐らく芸人志望の学生。


 オカ研とは友華がよくちょっかいを出しているので、よくわからんが無駄に交流のある奴でもある。


「節子さん?」


 初対面なのでアリスがその様子を不思議そうに見る。確かに普通の生徒とは一線を画した存在だからな。その反応も仕方ない。


「あら、おフランス人形のように可愛いですわね。もしやアリスとはあなたのことかしら? 転入してきたそうですわね! わからないことは何でもお聞きなさいな、施しを授けてよ!」

「ぷー、施しって……! おフランスて……!」


 個人的にツボらしく友華はお腹を抑え足をバタバタさせながら笑いを堪えている。

 独特な人間同士惹かれあうものがあるのだろうな。多分。


「ごほん! まあ、今日来たのはその部屋貸しの件を撤回しに来たんですわ! いつもあなた方の好きなようにいくとは思わないことね」


 おーほっほ、と高飛車に笑う山川。どうやら友華が取り付けた約束は山川からじゃなかったらしい。いくら部員から許可を貰っても、部長の一声ですぐに撤回させられてしまうのは予想できたはずなのに……。


「そう、そうよね……。私も焦ってたから少し強引だったわ……」


 意外にも友華は反論せずに悲しそうな視線を送っていた。

 

 いや、違うな。これは演技だ。悪いことしようと企んでいる時の友華だ。


「あら! あらららら! 天下の友華さんも私には敵いませんことね! クソ雑魚ですわ!」


 調子に乗ってる山川。クソ雑魚さんは目尻に涙を浮かべ、それを隠すように顔を手で覆った。


「ええ、完敗よ。文化祭で売り上げ三位以内に入らないと廃部になるのだけれど……、仕方、ないわよね」


 それまで調子に乗っていた山川は凍りついたように動きを止める。


「え……廃部? 本当ですの?」


「そうよ。校長先生からの決定でね。あ、別にあなたは何も気にしないでいいの、私たちの問題なのだから……」


 迫真の演技で涙を流しているようにも見える。役者の才能もありそうだな。


「ま、待ちなさいな! 如月友華!」


 腕を組んでいるのに申し訳なさそうな声を出すのは見事に騙されている部長さんだ。


「い、いいわよ! 教室くらい貸すから元気出しなさいな! この部活は、その、なくなると困る人もいるはずだし、それが私の責任にされてもたまりませんわ!」


 背伸びしながら指先までピンと伸ばした手の甲を頬に付ける山川。


 普段の傲慢機著な振る舞いの割には良いやつなんだよな。学校のみんなもそれを知っているから、山川は嫌われることなくむしろ慕われているのだろう。


「本当に? ありがとう林田」

「山川よ。その、今日は事情も知らずに訪問して失礼でしたわね。これ、お詫びの石鹸ですわ。アリスさん、私の自信作なので是非ご利用なさって」

「え!? あ、うん」


 まさか自分に話を振られるとは考えていなかったアリスが、びくりと背筋を立てて返事をする。


「そ、それでは本日はこの辺で……。ごめんあそばせ!」


 いたたまれなくなった勢いでそのまま帰っていく山川。友華は帰った瞬間爆笑し、俺たちはそんな部長を冷めた目で見ていた。


「山川、良い人だね」


 何故か石鹸を手渡されたアリスが匂いをかぎながらおっとりしていた。


「あ、そういえば看板はどうするのさ?」


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