十五話・文化祭準備
次の日、昼休みは教室でアリスや鈴音と昼食を取り、放課後に部室に向かう。授業の時間に文化祭準備も始めて、いよいよ本格的に学校も行事特有の浮ついた雰囲気が流れ始めた今日この頃。
道中に通った文化部の部室からは、部活として最大のイベントでもあるため賑やかに準備に励む声が聞こえた。
そんな中……。
「うーっす。って! 孝宏!?」
オカ研の部室では俺の親友、友達、いや知り合いの孝宏が棒のように一直線に地面で延びていた。まるで何か毒素が抜けたかのようにテカテカしているような気がするが多分気のせいだろう。
「何があったんだ?」
肩を抱き抱えて上半身だけ起こすと浅く息を吐きながら声を発した。
「……に、げろ」
「どうしたんだ! 誰にやられたんだよ!」
体を揺さぶるが孝宏の反応は無い。くそ……もう駄目か。
俺はその場に孝宏を置いてそのまま立ち上がる。部室の奥にいるのだ。孝宏をここまで追い詰めた相手が。
「お前が、やったのか……友華」
「あら、私に歯向かうつもりかしら? 優作ごときが?」
優雅に髪をはらいお嬢様の風格を漂わせるのは我らが部長友華。
信じられない現実に頭を抱えそうになった。まさか同じ部活の仲間に手を出したなんて見損なったぞ。
「一体何でこんなことを!?」
「お前らが私を置いていったから、と言っておくわ」
「あ、そうだった。すまんな」
そういえば昨日鈴音の家に友華を放置して帰ったんだった。子供たちにも懐かれていたし、多少の乱暴は子供なら仕方ない範疇のものだ。
なので鈴音の発表に協力してくれる話が纏まったらすぐに帰ったんだったな。
忘れてた。
「ええ、気にしてないわ。私は寛大な心を持っているから」
「な、なら近づいてくるのをやめろ!」
席から立ち上がりジリジリと俺との距離を詰めてくる。友華の背後に般若のお面が見えた。きっとあれだ、精神エネルギーが具現化したとかだろう。
「お黙り! 秘技・ツボ突き!」
「がああああああ! 健康になるうううう!」
足を掴まれてツボを的確に押されるのだった。
数分後。
扉を開けて入ってくるのはアリスと鈴音だ。
物静かなアリスと忙しない鈴音は正反対な性格の気もするが、気が合うようでここのところかなり一緒にいる。
「うわあ! 優作どうしたの!?」
「ふふ、山元はいつも楽しそうだね」
ソファで脱力したようにがっくりと項垂れていた俺に各々の感想を述べる。
「ふう、これで全員揃ったわね。さて文化祭について話し合いしましょうか」
友華が額の汗をぬぐいながら部長席について、文化祭について話を進める。
俺と孝宏も腰を押さえながらソファに座って聞く体勢になった。
「そういえば友華は、当日参加できるの? 三年生は劇をするって聞いたんだけど……」
そういえば学年ごとの発表で三年は劇だったな、完全に失念していた。そんなアリスの問いに友華は少し難しそうな顔を浮かべる。
「実は鈴音だけじゃなくて私もフルに参加は厳しいのよ……。時間的に午前中少し抜けることになるかしら。お昼の人が混む時間にギリギリ間に合わせるようにするつもりよ」
「無理はしないでいいが、そうしてくれると助かるな」
「僕、居酒屋のバイト経験あるから安心して任せてよ」
「あら、珍しく頼もしいわね。期待してるわよ」
意外な経歴を持つ孝宏に友華だけでなく全員が驚くが、嬉しい報告だ。厨房はアリスの両親がしてくれるので調理の心配はない。残りの課題だった接客の方も経験者がいるなら安心できるな。
「私が午後に発表だから友華ちゃんとは入れ違いだね!」
「うん。一人抜けるだけなら何とかなると思う」
そこで友華が俺たち二年組を頬杖付きながら見つめる。




