アリスとの出会い④
鞄を肩から下げて、オカ研の部室から少し歩くと階段付近の曲がり角で突然視界に人影が表れた。
向こうが走っていたので危うくぶつかりそうになり、何とか踏ん張って衝突を回避する。
「どわあ! あっぶな!」
「ひゃああ! ごめんなさい!
って、優作? ビックリさせないでくれない」
悲鳴を上げたと思ったら、人を見るなりケロッと表情を変えて悪びれた様子もなしに失礼な事を言うこの女子生徒は神谷飛鳥だ。
俺の幼馴染であり、一年の頃から生徒会副会長として持ち前の生真面目な性格を発揮してきた次期生徒会長候補の一人。
トレードマークのポニーテールをふよふよと揺らして、俺を見ている。
男子からだけでなく、どちらかというと女子からの人気が高く入学式当日に当時の三年から告白されたのは最早伝説として語り継がれている。
「ふ、俺の心が広くてよかったと思え。 今は急いでるから見逃すことにするよ、じゃあな」
出来るだけ暗くなる前に帰りたいのは本音だ。
武器を貰ったとはいえ、不安なもんは変わらない。
足早にその場からさろうとする。
「あ、待ちなさい」
横を通ろうとする俺の前に体を入れてきて、通せんぼをしてきた。
表情からもわかるが、結構怒っているようだ。頬が膨れている。
間違いなく原因は彼だろう。
「優作いま、オカ研から来た?」
やはり怒りの矛先は孝宏に向けられていたようだ。
それならば俺は今回は無関係。さっさと帰らせてもらおう。
「ああそうだ。今日は少し用事があってな。それが終わって帰るところだ」
「孝宏はいた?」
鋭い視線を向けられた。
狩りを行う前の獣のような静かな獰猛さを秘め目は、嘘をつくとどうなるかわかっているだろうなと暗に示している。
しかし脅しに俺は屈しない。
さっき約束した、友情には逆らえないんだ。
「悪い。あいつは今日来てな――」
「今日の宿題、解答送るわよ」
「入って左側のソファ。窓は空いてないから逃げるのは不可能だ。間に障害物は無い。」
「っそ。ありがと」
言って飛鳥が走り出した。俺が両手で開けるドアを片手で勢いよく開き、中に突入していく。
「どわあ!? なんで! 裏切ったな、優作! にぎゃああああああ!」
さらばだ。孝宏。
脅しには負けないけれど、メリットがあったら話は別だ。
友だった男の最後の悲鳴が響き渡り、騒がしくなった校舎を後にする。
時刻は午後五時半。
今日は会いませんように……。
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「うーん……フラグ建築しましたねこれ」
ため息が漏れる。
昨日の交差点。住宅街の近くにある道路なので車通りは程々に多い。
そんなどこにでもありそうな交差点の真ん中に白いワンピースを着た銀髪の少女が立っている。
大方この世のものとは思えない浮世離れした容姿。今回も一瞬だが目を奪われた。
この異状な光景に俺以外の人間は気づいていないようで、小学生や仕事帰りのサラリーマンは横断歩道を渡る際に少女に限りなく近づくが、見向きもしない。
少女は無表情でその人々を眺めるだけ。
本当に幽霊なんだろう。
少女のあまりにも常軌を逸脱した振る舞いと、周囲の反応からその存在を自信を持って決めつけた。
「昨日よりも早い時間なのにな……少し働き者すぎやしないか」
ぼやいてももう遅い。
少女の幽霊は俺に気づき信号待ちをしているところに近づいて来ていた。
無意識にポケットにあるタッパーを握る力が強まる。