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幸福に生きたい不幸なあなたへ  作者: 木鳥
一章・鈴音
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   鈴音の家庭②

 住宅街から少し外れた場所。周囲は空き地に挟まれた場所に一つの建物がある。もしかしたら空き地もその建物の敷地なのかもしれないが、そこまでは知る由もなかった。


「ここが、鈴音の、家?」


 アリスが目の前の建物を見上げて呟く。まあ、初めて見たらその反応も無理はない。


 オカ研の全員で来たのは大きな二階建ての建物だ。ただし一般の家の大きさではなく、横向きに長い。部屋も十くらいあるのが二階の窓の数から伺える。一階は二階よりも窓は少ないが、大きなリビングのような空間があるのが外からでも想像できる。


「アリスちゃんには教えてなかったよね! 私はこの児童養護施設【青い子供の家】に住んでるの! あ、隠してたわけじゃないよ!」


 ぶんぶんと手を振って否定する。アリスもそれくらいは分かっているので頷いた。


「わかってるよ。そこは疑ってない」

「よかったあ! 変に気にする人も多いけど私にとってはここも家だから、これからも普通に仲良くしてね!」

「うん。そのつもり」


 鈴音は歩きながらアリスの返事に嬉しくなって、少しスキップ気味になる。出会った頃は俺も驚いたが、鈴音にとっては日常の一部を紹介してくれただけ。そこに同情を誘う意図はないのだろう。


「それにしても久しぶりに来たなあ。弟たちは元気なの?」

「元気すぎて大変だよー。……というか、本当に寄るの? 私は今の生活でも大丈夫だよ?」


 鈴音が何回目かわからないセリフを口にする。今日俺たちは鈴音本人が普段は言いにくいであろう、自分の家事を手伝ってもらうことを提案しに来たのだ。


 それを言ったところでここの人たちは不機嫌にはならないから、快く協力してくるはずだ。変に気を使って鈴音が言えていないだけだろう。


「まあ、普通に遊びに来たかったしな。前来てから大分空いたし」


 フォローをいれると安心したように鈴音が引き戸を開けて家の中に案内してくれた。


「みんなーただいま! 部活のメンバー連れてきたよ!」


 そう言って元気に帰宅を伝える。すると玄関からは壁で見えないリビングのドアが開きどどど、と音を立てて複数の人間の足音が聞こえる。


「来るぞ! アリスを囲め!」


 俺の合図で友華、孝宏がアリスを俺含めた三角形に囲んだ。


「今度はどうしたの?」


 今日一日で突発的な出来事に慣れてしまったのか、アリスは平然と尋ねてきた。ありがたい対応力だ。


「来るんだよ。子供が……!」


 孝宏の言葉の後にドアから大勢の子供が押し寄せてきた。全員小学生くらいの身長。


「「「お姉ちゃんたち久しぶりー!」」」

「ふぐう!」


 真っ先に友華の顔に飛びつき重さで床に倒していた。そして倒れた友華の腕を引っ張ったり、関節を決めたりして遊んでいる。


「ふう。今回も友華ちゃんだけだったね」

「こいつ子供になつかれるんだよなー」

「あ、あんたら! 助け! なさい!」


 バンバンと廊下を叩いてギブアップ宣言するが、子供たちは笑顔で続けている。久しぶりに会ったが元気そうでなによりだ。


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