茶葉の生産量一位は静岡です⑤
「なんだ、よそよそしいな! 確か上赤と言ったよな! 俺は大門寺炎人だ、呼び捨てでも構わん。委員長としてクラスメイトの頼みは断れんからな、がっはっは!」
豪快に口を開けて笑う。この男は柔道部のエースにして去年の県大会でも個人では第二位、この学校にしては珍しく強豪校顔負けの強さを持つ生徒なのだ。
熱血学級委員長というこれまた、暑苦しそうな肩書きがあるが本人は結構気に入っているらしい。
「うう、私もクラスメイトだよ! 大門寺ひどい!」
「いやなあ、俺も普段なら優作の頼みなら裏があるのではと疑うのだが、今回は上赤も一緒だからな。何か追う理由があるのだろうよと思ったんだ」
「俺の方が付き合い長いよな……」
転入したてのアリスよりも信頼が無いことに驚愕したが、この際気にしないでいい。
「それにしても鈴音は軽いなあ……。ちゃんと飯食べてるのか?」
「子供じゃないもん! 降ろしてえ!」
二人がほのぼのする言い合いをしている。俺は大門寺に近づいて両手を差し出した。
「そしたら逃げるだろ、部室まで運んでやるよ」
「いいな、じゃなくて山元。私が持つよ」
「無理言うなって。流石にそこまでは回復してないだろ。鈴音は軽いから俺に負担もかからない、任せてくれって」
アリスが心配して提案してくれるが、つい最近まで寝たきりの人間に任せるのは罪悪感がすごいので遠慮しておく。
大門寺ではないが、実際鈴音は羽のように軽い。部室まで運ぶだけならそこまで苦労しない。
お姫様抱っこみたいな持ち方になっているが、放課後のこの時間なら他の生徒に見られることも無いだろうし我慢してもらおう。
「うわあああ! 大門寺のせいだ! ばかばかばか!」
「ふ、鈴音よ。もっと言っていいんだぞ」
「じゃあな。大門寺」
今の会話に嫌な予感がしたのでそそくさとその場を後にするために歩き出そうとする。
「アホ!」
「普段誰にでも優しいお前に言われると、ありきたりな罵倒も威力が上がるんだな。ありがとう、新たな発見だ」
いつものように大門寺が身震いして、頬を赤く染める。……これに慣れた自分に驚くな。
しかし、やり取りに違和感を覚えたアリスが俺に耳打ちしてきた。
「ねえ山元、大門寺は何で顔赤くなってるの? 息も少し荒くなってるような……」
「ああ。あいつはドMなんだ。柔道部に入ったのも投げられたいという理由なんだが、それを上回る才能があったらしい。悪い奴じゃないんだよ」
「へ、へえ……」
子供のようにわめく鈴音を抱えながら、変態に背を向けてオカ研の部室に向かう。
その途中でどこか不安そうな顔をしたアリスが俺に尋ねてきた。
「ねえ、山元」
「どうした?」
「この学校って変な人しかいないの?」
「それは……多分そうだな。あれでも氷山の一角だし」
「……はあ。そう、なんだ」
転入してまだ一週間も経っていない。
どこか遠い目をしながらアリスが虚空を見つめていた。




