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幸福に生きたい不幸なあなたへ  作者: 木鳥
一章・鈴音
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   茶葉の生産量一位は静岡です③

 と、そんなやり取りをしていたら横からの視線に気づく。目を細めて刺すような視線を、俺にアリスが向けていた。


「アリスどうかしたのか?」

「べっつにー。仲良いんだね」


 少し不機嫌そうだ。どういうわけか、知覧は面白そうに様子を見ている。


 アリスに関してはまだ分からないことが多いが、何か気にいらないことでもあったのだろうか。


「アリスさん、でよろしかったですよね。申し遅れましたが二年の知覧千夜子といいます。及ばずながら茶道部の部長をさせていただいてますので、顔を覚えてもらえると嬉しいです」


 立ち上がった知覧のおしとやかな挨拶に、アリスは慌ててお辞儀を返す。


「あ、いえいえ私こそよろしくお願いします。上赤アリスです」

「ごめんなさい。私はもうアリスさんを知っているんですよ。転校初日からすごく可愛い女の子が入ったって噂でしたから」

「か、可愛い!? その、知覧さんの方が私なんかよりも、綺麗ですよ?」


 相変わらず自分に対しての過小評価がやめられないのか、アリスは本心からそう口にする。親に素直にはなれたんだから、今度は自分を大切にできるようになればいいな。


「あら、嬉しいお言葉ですね。あと私のことは千夜子で大丈夫ですよ」

「あ、うん。よろしくね千夜子」


 二人が仲良く出来そうで良かった。というか友人の多さだったら既にアリスの方が俺よりも上かもしれん。


 二人のやり取りを聞きながら部室の畳張りの空間に入り座布団に座る。


 そして、横には先客がいるのに気づいた。


「あ、優作とアリスちゃん。二人も来たの?」


 鈴音が正座して座っていたのだ。必然的に鈴音、俺、アリスの三人で横並びに正座する状態になる。


 座布団の前には和菓子が置かれているが、多分これはお茶が来る前に食べていいやつだろう。


「鈴音も来てたんだ」

「えへへー、実は千夜子ちゃんのお茶大好きなんだー。友達だしね!」

「お前って、友達じゃない奴いるのか?」

「あ、このお菓子美味しい」


 三人で適当に会話して茶菓子を食べ終わったタイミングで知覧がお茶を入れた丸いお茶碗を持ってきた。


 茶葉がもつ特有の香りが部屋に広がり、目の前に茶碗が置かれるとより一層それは鮮明になる。昔の日本の偉い人は喜々としてこれを飲んでいたのかは知らないが正直俺は苦手だ。


 苦味というか渋みというか、どこか気難しい雰囲気のある飲み物なんだよな……。


「あれ、一人ずつじゃなくていいの?」


 全員の前に茶碗が置かれたのをアリスが不思議そうに見た。


 突然何を言ってるのだろう。千夜子は少しだけ驚いたような顔をするがすぐに笑みを浮かべる。


「はい。正しい作法は確かに趣を感じられて素敵ですが、学生へのお茶会はそれを抜きにして気軽に参加してもらいたいんですよ。マナーはその場の人が不快にならなためにあるものですしね」


「じゃあ、じゃあ! 全員一緒に飲んでもいいの?」

「大丈夫ですよー」

「はーい!」


 鈴音が嬉しそうに返事していた。


 え、なんでこいつらお茶会の作法に詳しいの? 俺が知らないのがおかしいのか?


 普段はそんなこと気にもせずに飲んでいたが、もしかしたら何か失礼なことをしていたのかもしれない。


 鈴音の方が詳しいということに少しショックを受けている。


「じゃ、じゃあ、飲ませてもらうぞ」


 その焦りをはらう為にも、一応知っている限りの作法で飲むとしよう。えーと、確か右手でとって左手の平に乗せて、二回くらい回すんだっけか。


 チラリと知覧に視線を送るとニコニコしながら俺を見ていたので、多分間違っては無い、と思う……。


 そしてこれ以上の作法を知らないので、普通に茶碗に口をつけてお茶を飲んだ。


 ん、今日のお茶は……。


「これって、お前の好きな茶葉だったよな。苦くないから俺でも飲めるやつ」


 お茶の苦味や渋さが薄く喉をごくごくと通りそうなお茶だった。確か名前は、


「はい、知覧茶です。緑茶が苦手な方でも飲めますし、アリスさんは初めて飲まれるかもしれないのでこちらを選ばせてもらいました。日本一の茶葉の産地鹿児島で作られているんですよ。」

「そうそう、お前の名前に似ているんだったよな。どうりで俺でも少し覚えてたわけだ」

「私なんかがおこがましい気もしますが、茶葉と名前が似ているのは光栄ですねー」


 知覧が朗らかに笑う。ふと横を見るとアリスが顎に手を当てて何かを思い出すように、思案する顔をしていた。


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