茶葉の生産量一位は静岡です②
とりあえずは三階建ての部活棟をまわる。鈴音と仲がいいのは女子だけの運動部だったよな。
「山元! 見てこれ!」
「どうした!? 鈴音か!」
隣を歩いていたアリスが何かを発見したようで、俺に声をかける。
壁を指差していた。目をキラキラさせながら。
「えーと……。茶道部、お茶会開催中。お、今日なのか、珍しいなこういうの」
「そうなの? へえ、そうなんだ……」
チラチラとその張り紙を見るアリス。もしかして、こいつ。
「行きたいのか?」
「……うん。でも、鈴音が先」
鈴音を探している最中だが、アリスが折角参加したがっているんだ。俺もどうせなら行かせてあげたい。
「俺は一人でも大丈夫だから行ってきたらどうだ?」
「ううん、山元一人だと心配だから私もついてくよ」
ううむ、思ったよりもアリスに不安がられているようだ。ぶっちゃけた話、鈴音が部室から逃亡するのは俺たちのからかいが行き過ぎることがあって何回か起こっている。
アリスは初めての経験なので俺たちの中で一番大事に捉えているのかもしれないな。
「安心しろ。よくあることだし、鈴音は部室に鞄を置いていただろ? それを取りに必ず部室には戻ってくる。そのために友華と孝宏は残ってるんだよ」
これは本当のことだ。鈴音はなんだかんだいつも最後には部室に戻ってきて、その時に俺たちが謝る。これが恒例の流れとなっている。
「今回が初めてじゃないの?」
「ああ。だから正直、全然行っても大丈夫だと思うぞ。なんなら俺も行きたいしな、茶道部には知り合いがいるし」
アリスは俺の言葉を聞いて考え込むように目を細める。ここまで言っても罪悪感を感じるあたり、アリスの人の良さがわかる。
今回は完全に俺のせいなので鈴音を追っているが普段なら、どこかに行っても誰も追わずに部室で時間を潰している始末だし。
「うーん……、それなら、覗いてみてもいい?」
「ああ。じゃあ行くか。茶道部はこの先だ」
アリスを引き連れて廊下を少しだけ歩くと茶道部の部室が見えてくる。普段オカ研の異質な看板を見慣れているので、普通の見た目の部室に何故か違和感を覚える。
建て付けも悪くない扉に手をかけ横に引いた。
「おーい、いるか知覧?」
中は床の上に畳を置いて、入口付近が玄関のように区切られている。部員たちの靴もかかとを揃えられて丁寧に置かれていた。
「ち、ちらん?」
俺が口にした言葉にアリスが疑問を浮かべる。確かに珍しい名字だよな。
部室の中には見知った顔がいた。長い黒髪を揺らして、所作の良い動きで振り返り俺と視線を合わせる。
大和撫子という言葉が似合いそうな、純朴さと礼儀正しさを兼ね備えた同い年の少女が畳の上に敷いた座布団に正座していた。
「あ、山元さん。お顔を見るのは久しぶりですね」
そう言ってうふふと口元を抑えながら笑うのは茶道部部長にして我が校の三代戦力、オカン三大将の一人知覧千夜子だ。
同級生でクラスは違うのだが、以前友華絡みの事件で知り合って以来出会ったら挨拶する程度の仲にはなっている。
「そうだな。最近はどうだ? 部員は増えたのか?」
「変わりなしですよ。幽霊部員が多くて私一人だけでやっています」
「そうなのか、大変そうだな」
「そうなんですよー、よろしければまた手伝いにいらしてくださいね」
入り口付近で近況を聞いておく。茶道部はオカ研よりは遥かにメジャーな部活なのだが、どうにもこの学校では部員が少なく廃部寸前の部活の一つになっている。
知覧があまりにも本気すぎるし教師もそれを知っているので、在学中になくなることは万に一つも無いだろうが。
「……二人ともどういう関係」
アリスが俺の背後から顔を出して知覧を見た。当然だが初対面だろう。
しかし、知覧はアリスを知っていたようで大きく目を見開いてからにやにやと微笑む。
「あら、もしかして放課後デートですか? お熱いですねえ」
この反応まさか知覧にまで教室での噂が広まっているとはな……。
頭を抱えながら弁解する。
「違うんだよ。アリスとは前からの知り合いってだけで、そんな仲じゃない。なんなら根も葉もない噂もあるが、ほとんどは嘘だから信じるなよ」
この学校の生徒は良くも悪くも好奇心旺盛な奴が多い。噂が広まるのもSNS以上に早いのだ。まあ、鎮火も早いんだけどな。
「冗談ですよ。山元さんですしね」
「どういう意味だ?」
「うふふふ」
「どういう意味だ!?」
と、そんなやり取りをしていたら横からの視線に気づく。




