類は友を呼ぶ②
「そういうのを聞いてるんじゃない。……ちなみに作ったのは私」
「作り手の話じゃないのか。それなら、それはアリスが人のために作った分ってことだよな。友達……、鈴音の分か」
「え、わざとやってる?」
顎に手を当てて本気で推理する俺に対してアリスは冷たく刺すような視線を向けてくる。どうやら鈴音でもないようだ。
だとすると。消去法で。
「その、もしかして、俺のか?」
「うん、山元の。鈴音から山元のご飯は毎日、買ったパンかコンビニ弁当って聞いたから。そのままだと体調崩しちゃうでしょ?」
そう言って俺の方に弁当箱を差し出してくる。
女子からの弁当。しかも手作り。
内心かなり嬉しいし驚いてもいるが、これは特になにかあるわけでなく純粋なアリスの善意からだ。
ならば、俺も変に動揺せずに受け取るのが一番だろう。
「お、おお。そうなのか。ありがとう、すごく嬉しいよ」
「ふふ。よかった」
アリスが微笑む。
完全に役得でしかない状況だ。鈴音ナイス。
「なあ、あいつらって……」
「あれで何もないはおかしいよね」
「埋める?」
クラスの連中が何か言っているが気には止めない。
ありがたくアリスから受け取った弁当を机の上に置いた。鞄の中身を入れた後に引き出しに慎重に入れよう。
いくら善意といっても弁当を作ってくれたのだ。少しくらい好意があるのではと期待してしまい上機嫌になる。
「あ、おはよう優作、アリスちゃん」
「ん、おはよう鈴音」
「おはよう。今日は遅かったな」
鈴音が俺よりも遅く来るのは珍しい。いや、今年の四月ごろからたまに学校に来るのが俺と同じくらいの日があるか。
一年の頃はそんなことなかったのに、怠け癖はなさそうなので意外だな。
「あれ、優作。今日はお弁当なの?」
俺の机に乗っていたので気づくのは当然だが鈴音は不思議そうに尋ねてくる。
「ああ。アリスが作ってくれた」
「ええ! いいなあ! アリスちゃん、一回でいいから私にも作ってよ!」
「別にいいよ。家の料理はよく作っているから手間にもならないし」
……どうやらアリスにとって他人に弁当を作ることはそこまで重大なことではないらしい。なんかさっきまで舞い上がっていた自分が恥ずかしくなるな。
そんなやり取りをしていたらもともと時間も近かったので、直ぐに担任の先生が入ってきて教室は静かになった。
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「いや、お前らカップルかよ……」
昼休み。
オカ研の部室内で昼食にアリスの弁当を食べながら、今朝の出来事を話していると孝宏から何故か引かれたような目で見られる。
ちなみにアリスの弁当は二段弁当で一段目に白米、二段目にウインナーやミートボール、一口サイズに切られた豚カツなどのおかず類があり十分お腹の膨れる内容になっていた。
今は鈴音も含めたクラスの女友達と教室で弁当を食べているらしいから、帰ったら礼をもう一度言おう。
というか本当に美味しい。お金を払ってもいいくらいだ。
丁寧に作られた味、のような気がする。人の手作りなんてそんなに食べる機会も無いのでよくわからないが。
「俺だってこんなことされたらちょっとは期待するけどな。アリスにはその気はゼロっぽい」
「マジかよ。アリスちゃん、恐ろしい子だ……」
「顔も良いから、すごいモテそうだよな。しかも距離感がたまにおかしいから、誤解をされそうだし」
「だろうね。僕のクラスでも昨日だけで名前が知れ渡ってたよ。……お前何したらあんな子と知り合えたんだよ、アプリ?」
「ふ、それは企業秘密ってやつだ」
孝宏といつものように喋る。褒められているのはアリスの容姿だが孝宏があまりにも羨ましそうにするので、俺も少しだけ自慢げに答える。
案の定というかアリスは既に学校中にその名が知れ渡っているようだ。オカルト研究会に入ったと判明すればもっと目立つだろう。そっちは悪い意味で。
「ちょっと男子―、変な話しないでくれなーい」
そんな俺たちを呆れたように見るのは部長席に座っている友華。
現在部室ではこの三名による食事が行われている。友華の前ではあまり女子の前ではしない下世話な話も出来るので気分的には男三人でいる感じだ。
「そんなこと言ってもさ、友華ちゃんはこいつとアリスちゃんの関係気にならないの?」
「ならないわよ。そんなものに興味を示すほど暇じゃないの」
「暇しかないだろ」
「お黙り優作」
「なんかピリピリしてない? 生理?」
「死ね」
「もがあ!」
「ああ、口の中に大根が!」
友華は既に昼食を食べ終わっているようだ。机の上にノートパソコンを取り出して起動ボタンを押している。おそらく今はその待ち時間が暇だったから話しかけてきたんだろう。
投げ大根は綺麗に孝宏の口に入っていった。
「本当にアリスとは何でもないんだよ。大体俺があんな可愛い女子と知り合いってだけでなく、それ以上の関係を持てると思うか?」
「もが、確かに。お前程度じゃ無理だな」
「説得力すごいわね。てっきり弱味を握って無理矢理体の関係を迫ってるのかと思ってたわ」
「ちくしょう! 言ってて悲しくなってきた!」
塩対応に目から流れでる涙を腕で拭きながら応じる。
せめて少しはフォローしてくれてもいいだろ。
「でも友華ちゃん、本当に興味なさそうだよね。いつもなら嬉しそうにからかってきそうなのに」
「まあ最近は優作の事もあるけど、私はどちらかといえば鈴音の方が気になるかしら」
自分の髪を指に絡めてくるくる遊ばせながら友華がふと呟く。
「鈴音が、気になる?」
「優作。分かれよ、友華ちゃんは女の子が好きってことだよ」
「あ、なるほど、だから男に興味が一切ないのか」
「そうそう。こんなに魅力的な男子が近くにいるんだぞ。それでも一切動じないってそういうことだろ」
「確かにな。悪かった友華。配慮に欠けたな」
「お前らの頭には味噌が詰まっているのかしら?」
友華があからさまに嫌そうな雰囲気を発する。
二人して合点がいって頷く俺達を怖いくらいの笑顔で見つめてきた。