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幸福に生きたい不幸なあなたへ  作者: 木鳥
一章・鈴音
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   普通に不味い大事件②

 それが我らがオカルト研究会部長にして自他共に認める天才、如月友華なのだから。


「案ならあるわよ」


 不適に笑う友華。さっきまでの撃沈ぶりが嘘のようだ。


「まず、部活の活動実績とはいわば学校への貢献度を表したものよね。運動部なら大会の出場、文化部ならコンクールに作品を送るとかで学校の名前を売る。そりゃ、優勝や作品が入賞するのが一番だけれど、この学校ではそこまでは望まれていないわ。形だけでも活動した記録を残せればいいだけ。違うかしら?」

「そ、そうよ。それが何? どの学校もそうじゃない。」

「ええ、そうね。だから活動実績が無いのなら作れば良いだけじゃない。この学校は部活強豪校でもないのだし、そんなの簡単よ。誠意を見せれば良いだけ。」


 友華はどんどん話を進めていく。


 何となく予想はできた。多分こいつは、最終的に屁理屈で言いくるめてゴミ拾いや休日のボランティア参加とかを部活の活動実績にするつもりだ。

 そんなことを考えていそうな、悪い顔をしている。


 アリス以外の部活メンバーは、また始まったみたいな感じで友華を見ていた。


「つまり、私が言いたいのは――」

「ストップ!」


 友華が結論に入る前に飛鳥から静止される。


 予想外の行動に友華も思わず声を飲み込んだまま黙ってしまった。


「どうしたの飛鳥ちゃん?」


 孝宏が尋ねる。飛鳥は手元のプリントを見て話し始めた。


「私だってこの部活には潰れてほしくないから、いつもそれなりに頑張ってるのよ。それでも今回は厳しいと思っているのには理由があるの。」

「理由って?」


 鈴音が首をかしげている。


「今回の廃部提案は校長からよ。」

「「「なにい!?」」」


 アリス以外の部員の声が重なった。


 校長。それはオカルト研究会の最大の敵であり、部活創設の際に一番目をつけてきた男だ。この学校で唯一友華の宿敵と言っても過言ではない。


 そんなやつがバックにいる。これは確かに、一筋縄ではいかなそうだ。


「そして、これが校長から私が貰った手紙よ」

「「「ぴ、ピンクの便箋!?」」」


 意外だ。あの男にあんな趣味があるなんて。


 アリスは少し置いてけぼりにされて、周りの反応をキョロキョロ見ていたが今はそれを気にしている余裕はなかった。


 飛鳥が手紙の封を開けて読み始める。


「こほん。えー、オカルト研究会の諸君。青春しているか? 私はしているぞ。最近久しぶりにゴルフにいく機会があってな、なんとそこで旧友に会ったのだ。最後に会ったのは十年も前だが一目でわかったよ。まさかゴルフ場で再開なんて驚いた。世間は広いようで狭く相手は私が校長になっていることを知っていたようで、最初にその事について触れられたよ。全くどこから漏れたのか……。ゴー、流布ってね(ゴルフだけに)。へへ。」


「優作。準備はいいかしら?」

「おう。野球部からありったけのボールを借りてくる」

「僕はロケット花火を買ってくるよ」

「ああ、ほらみんな! 落ち着いてー!」


 立ち上がり校長室に殴り込みを仕掛けようとする俺たちを、鈴音がドアの前で両手を広げて静止させる。

 どいてくれ、俺たちはこんなところで止まっている訳にはいかないんだ。


「くだらないダジャレ言いやがって、今回は許さん!」

「何より恥ずかしくなって()の捕捉を入れているのが腹立たしいわ」

「ふふ。みんな、元気だね」


 アリスは最早感心したように言って、ソファに座っていた。行儀良さそうに小さな口で和菓子を少しかじっている。


 こいつもこいつで、すごい馴染みようだ。今日入部したばかりなのに。


「あーもう、中略して読むわよ。本当にあんたらは……」


 憤る俺たちを見て飛鳥はため息をついた後、手紙を軽く目で追ってから口を開いた。


「以上が私とトレジャーハンターの旧友がアマゾンの奥地で出会った民族と彼らの守っていた黄金郷の話だ。さて、本題に入るか。実は――」

「待て! 何かすごいところ飛ばさなかったか!?」

「旧友はトレジャーハンターなの!?」


 俺と孝宏の身を乗り出した問いに飛鳥は呆れたように肩をすくめた。


「話を中断しないでよ。その話はまた今度読んであげるから。えーと、如月友華はきっとボランティア活動などを活動実績にしようと提案する気ではあるまいか?」


 友華が頬を膨らまし不機嫌そうな様子だ。

 校長に考えを読まれたのが気に入らなかったんだな。


「我が校にはボランティア部があるので、それを認めるわけにはいかない。かといって、オカルト研究会に急に出来る活動は限られてしまうだろう。なので私から提案だ。四週間後に迫っている我が校の一大イベント、文化祭。そこで、君たちは部活動として店を出すんだ。ジャンルは問わん。出店の売上で三位以内を取れれば、部の存続を認めてやろう。」


 飛鳥はそこで顔をあげた。どうやら手紙は終わりのようだ。

 長かった気はするが、文化祭で出店を成功させれば廃部を回避できるということ。


「校長の出す案にしては、何をすれば良いのかわかりやすいな」

「みんなで出店するの!? 楽しそう!」

「文化祭。わくわくする」

「僕は賛成だね。どうせ当日は暇だし」

「はあ、あの男の話に乗るのは癪だけど、今回は従うしかなさそうね。」


 皆が思い思いの感想を語る。

 飛鳥は何故か意外そうにそんな俺たちを見ていた。


「あら、苦情が出るかと思ってたけど、みんなすんなり受け入れるのね?」


 普段の俺たちをどう思っているのか聞きたいところだが、流石に今回に関しては校長の話に乗るしかないだろう。


 逆にここで事を荒立ててこの案さえ取り下げられてしまうと、俺たちが活動実績として残せるものは本当に無くなりそうだし。


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