表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幸福に生きたい不幸なあなたへ  作者: 木鳥
最終章・優作
243/243

七十八話・不可思議な青春

 アリスに意を決して結婚の意思があることを伝えたはずなのに、その上を行く意表をついた返しをされて固まってしまった。

 アリスはそんな俺を見て不思議そうな顔で首を傾げている。


「おま、お前、何でそうあっさりと言えるんだよ……!」

「ええと、私は優作に告白された時から結構その気だったよ」


 嬉しいけれど、驚きの方が強くて「お、おお」と訳の分からない台詞を吐くことしか出来なかった。

 それは俺だけじゃなくて、周りにいたマスター達も同じだった。


「アリス、本気で言ってるんか!? 結婚を考えてたって、山元とか……?」

「ま、まあまあ奏、アリスももう二十歳だし」

「早いやろ!?」


 幸燿さんがマスターをなだめていた。実の娘が爆弾発言を投下したのに、相変わらず冷静でいられる幸燿さんは流石だ。

 俺なんて変な汗が止まらなくなっているというのに。


「優作さん!」


 固まっている俺に串木野先生が近づいてきて胸ぐらをつかまれた。

 身長差があるから苦しくはない。先生は顔を真っ赤にして怒っているのか照れているのか、よくわからない顔をしていた。


「は、破廉恥ですよ! けけけ、結婚なんて!」

「先生落ち着いてくださいよ。まだ確定じゃなくて、そういうことも視野にいれてって話です」


 串木野先生には刺激の強い話だった。「いっちゃん、大人げないぞ」と藤岡さんが俺から引き離す。


「何かこの人たちを見てたら落ち着いてきたな……」


 大興奮している大人たちを見ていると逆に冷静になれてしまって、自分の心がすっと軽くなった。

 アリスが俺に対してそんな気持ちを抱いてくれてたのは、正直滅茶苦茶嬉しい。周囲に人がいなければ踊り出したいくらいだ。

 そして、このような状況を作り出したアリスはギャーギャー騒いで俺たちをほったらかしにしている大人たちを見ながらどうしてか少し微笑んでいた。


「優作。楽しい?」


 それがいまの状況だけを指している訳でないことは、彼氏としてよくわかった。

 アリスはどこか掴みどころが無くて、いつも俺の予想外の行動をする。けれど全ての行動に共通しているのは、アリスはいつも誰かの幸せを考えているということだ。

 自分で考えてしまうのも恥ずかしいけど、アリスが今考えてくれているのは俺の幸せについてだ。


「俺は楽しいよ。アリスは?」


 だから俺はアリスに惹かれた。

 自分よりもアリスの事を幸せにしたいから。不器用な生き方をしているアリスを少しでも支えてあげたいと思った。

 俺の問いかけにアリスは満面の笑みを浮かべる。


「うん。楽しい」


 この笑顔があるなら、俺はこの先何があったも挫けずに生きていけると思う。


「優作はさ、今まで色んなことがあったけど。今は幸せ?」

「ああ。幸せだと思う。だって今は明日が来るのが楽しみで仕方ないんだ。まさか自分がこんなに人生を楽しめるなんて思ってなかったよ」

「私だけじゃなくて、優作は色んな人から頼りにされてるんだよ。自分を卑下しないでも、本当に凄い人だと思う。私は誰にでも優しいけど、自分に対して不器用な優作に惹かれたんだし」


 俺と全く同じ理由を言ったアリスの台詞にクスリと笑ってしまった。

 幸福なんて俺には縁の無いものだと思っていたけど、必死に藻掻きながらでも生きて行けば世界は広いのだから誰かには存在を認めてもらえるのだ。

 間違いだらけの人生で、後悔したことも多いけど。

 それでも、俺は全力で生きて来た。

 

 高校っていう閉所的な空間だけでもあんなに多くの人と関わって、面白おかしくて不思議な日々を過ごせたのだ。

 俺の想像がつかないような、いろんな人間がいて。その数だけ出会いや衝突があるけれど。

 オカ研の皆との関わりを通して、それまで信じることが出来なかった他人との関わりも悪くないと思っている。


「俺も、アリスが好きだよ。理由も似たようなもんだ。まだ、俺はアリスを養えるような甲斐性もないし、何より支えられるお金が無い。だからもうちょっと時間はかかるけど、いつか迎えに来るからさ。その時は、俺の質問に頷いてほしい」


 けれど人生はまだ半分も過ぎていない。

 五十年か七十年か。俺はもっともっとこの世界を生きていく。

 その残りの人生を少しでもアリスの幸せのために使いたいと思った。


「――はい」


 そう答えたアリスは人目も憚らずに俺と唇を重ねた。


「私はずっと待ってるよ。優作と一緒に、世界一幸せになりたいから」


 間違いだらけの人生で、これだけは正しいと思える。

 アリスを選んだこと。

 俺の今後の人生は今まで以上に大変で、自分一人ではどうしようもない困難に襲われることもあるだろう。

 でも、アリスとなら共に歩んでいける。

 理不尽で残酷な世界を、この人と一緒に歩んでいこう。

 そう思って見つめたアリスの顔は、俺の人生を幸福にしてくれる。

 未来への希望を胸に、この先の世界を歩んでいこう。


 無いものよりも在る者を大切に、手放さないように生きたい。

 そう考えた方が、きっと楽しい人生だから。


ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。

拙い部分しかない作品でしたが予想以上に多くの方に評価していただき嬉しい限りです。

こちらの作品に目を通して頂けた全ての方に、心より御礼申し上げます。


さて、あのーですね。今更こんなこと言っても信じられないと思うのですが……。

何と今作は最初のプロットの予定通りに進んでいれば十万文字で終わる短編だったんですよね。

何でこんなに長くなったかは私にもよくわかりません。

しかも書ききれていな要素もまだまだあります。

え、これどこで説明しよう? あれ、もう終わっちゃった、って感じです。



えー、本題です。

【世界一幸せになる男の不可思議な青春】というタイトルでしたが、書いてる途中に思ったんですよ。学生のうちに人生の幸福に気づけるくらい達観出来るか?と。

その結果、ああ無理や。社会見て揉まれないと学生目線だけの人生観は偏ってしまうやん。と思いました。

なので、今回は【学生時代編】を完結させる形になります。

暫く他の作品を書くので間をいただきますが、残り少しだけ社会に出た優作の話を書きたいと思います。


最後までお目を通してくださり、ありがとうございました。

またお会いしましょう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ