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幸福に生きたい不幸なあなたへ  作者: 木鳥
最終章・優作
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七十七話・浪人生活

 瞼に日の光が差し込んでくる。

 おかしい。昨日はカーテンを閉めて寝たはずなのに、何で光が当たるんだ。

 そのせいで、俺の意識はぼんやりとだが目覚めてしまった。

 塾でのバイトが終わった後にそのまま勉強を遅くまでしていたから、今日は少し寝不足なのに。


「……んん」

「ほら優作。もう七時だよ」


 体を揺すられながら声を掛けられる。

 揺するといっても、とても優しくて揺り篭の中にいるようだ。


「頼むアリス……、あと少しだけ眠らせてくれ」


 強めに起こすことが出来ないだろうから、譲歩してもらうように言って優しさに甘える。

 声の主は十中八九アリスなので成功するだろうし。


「うう、昨日もそんなこと言ってたような……。でも眠いのを起こすのは可哀そうだし……。どうしよう」


 予想通りアリスは悩んでいた。

 オロオロしているのが目を瞑っていても分かる。

 ふう、今日も二度寝には成功しそうだな。


「優作。起きて、お願い」


 もう一度アリスが体を揺すって来る。

 今度は少し強めだ。

 おかしいな、アリスはここまで揺さってきたことないのに。


「頼むよ。あと、五分でいいんだ」

「駄目。これ以上寝るなら、チュウして起こすよ」

「よし、任せた」


 ふ、大胆になったじゃないか。

 付き合いたての頃は何をするにも顔を赤らめていた癖にここまでになるなんてな。

 俺が唇をすぼめてキスを待っていると。


「わかった、はい」

「ごふ!」


 口に何かを突っ込まれた。

 味はあるから食べ物だろうけどスナック菓子みたいにざらざらしている。

 棒状のそれを咥えていると息が出来なかったので慌てて飛び起きた。


「はあ! 何すんだよ! お前アリスじゃないな!」


 アリスは優しいからこんなことはしない。

 今俺の枕の近くにいたのは、アリスではない別の人物だったということだ。

 俺の家に入れるのは合鍵を持っているアリスくらいだったはずだから、泥棒か何かが入って来たのか!?


「お前がキモイ事すんのが悪いんやろ! アリスの声真似しとったら勝手に付け上がったのはそっちやで!」


 視界に入ってきたのはアリスの母親であり、喫茶店のマスターをしている奏さんだった。

 何だ知っている人か。

 一安心だ。


「何でいるんだ? お義母さん」

「その呼び方したらはっ倒すで。アリスに頼まれてわざわざ起こしに来てやったんや。優作は今日大切な用事があるけど、一人じゃ起きれないから起こしてあげてーって頼まれてなあ」


 さっきまでのはマスターがアリスの声を真似していたのか。

 俺でも騙されるくらいそっくりだったな。

 疑わしいくらい似ていない二人だけど、やっぱり親子だったのか……。


「……ああ、そうだったのか。ありがとう。じゃあもう起きたから帰っていいぞ」

「帰っても山元のキモイ顔は忘れへんで。写真撮ったし」

「あんた何してんだ!?」


 右手に持っていたスマホの画面に俺の気色悪い顔がばっちり映っていた。

 うええ。こんな顔してたのかよ、やばいな。


「とりあえずアリスに送っておくわ」

「やめ―――」


 ピロン。


「あんた本当に送ったな!?」

「これでアリスが山元を嫌いになったら別れる口実になるやろ」

「最低の親だ!」


 はあ、はあ、起きて早々疲れるなこの人と関わるのは。

 顔はアリスの親だけあってかなり整っているのに、悪魔かよこの人は。


「お、返信来たわ」

「み、見せてくれ!」


 走ってマスターに近寄り、スマホの画面を覗き込む。

 アリスからのメッセージが届いていた。

 内容は。


『かっこいい! ありがとうお母さん!』

「っち!」

「っしゃああああああ!」


 真逆の反応をした。

 勝ち負けじゃないけど滅茶苦茶嬉しい。

 マスターは心底悔しそうな顔をして頬を膨らませていた。


「流石アリスだな。ほれ見たことか」

「くう! ここまで盲目だったとは思わんかったわ……。普通にクッソブサイクやろ……」


 失礼な事を言いながら床に膝を着いているけどそんなこと気にならないくらい優劣感を味わえた。

 完全に目も覚めたし、そろそろ着替えないとな。


「マスター、そろそろ着替えるから部屋から出て行ってくれ」

「ほーい。あ、そういえば用事って何なんや? アリスがどうしてもっていうから起こしに来たけど、ウチまだ教えてもらってないんよ」


 直ぐに立ち上がって部屋から出て行こうとするマスターが振り返る。

 アリスが話さなかったのは俺に遠慮したんだろう。

 別にバレたからといって困るような事でもないから、伝えてもいいよな。


「今日は、予備校で模試があるんだ」

「そっか。大学行くのまだ諦めてなかったんやな」

「おう、アリスのおかげだ」


 そういうとマスターは安心したように頷いて、部屋から出て行った。


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