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幸福に生きたい不幸なあなたへ  作者: 木鳥
最終章・優作
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   これからの生活④


「あ、先生ー。こんにちわ」


 待ち合わせの時間になり、アリスとショッピングモールの二階にあるレストランに向かうと既に串木野先生が到着していて店内のテーブルの上で本を読んでいた。

 受付の店員に事情を説明して店内に入ると、先生は入り口から一番遠い壁側の席から手を振り返した。


「こんにちわ! 優作さんもアリスさんも時間より速く来てくれたんですね!」


 二人で先生のいる席に近づく。

 既にパフェを注文した痕跡があった。


「失礼します」

「アリスさんは私服も素敵ですね。二人とも時間も守れて関心です」

「いえ、五分くらい前ですし。それよりも先生は一人で来たんですか?」


 確か話では、先生は塾の講師と一緒に来ると言っていた筈だ。

 アリスが最初に座り、その横に続くように座りながら尋ねる。

 先生はそれを聞かれるとバツの悪そうに頬をポリポリとかいた。


「いやー、それが、当の本人が遅れると連絡してきまして。今待っている最中なんですよ」


 珍しい。先生がイライラしている。


「先生とその塾の人は、仲が良いんですか?」

「あ、俺もそれ気になってました。昔からの友達っすか?」


 アリスが慌てて話を横道に逸らそうと、無難な質問を試みている。

 俺もフォローを入れてみた。

 先生は顎に手を当てて、しばらく考えた後に口を開く。


「いえ、知り合いですね。友達ではないです」

「先生がそこまで塩対応するのも珍しいっすね。どんな人なんすか?」


 串木野先生はすべての人間に優しい教祖のような存在だと思っていたのに、この反応は新鮮だ。

 何があったらここまでこの人に嫌われるんだろう。


「元カレとか?」


 アリスの発した一言にびくりと反応してしまう。

 先生の元カレって場合によっては事案だぞ!?

 いったいどんな奴が来るんだ。


「……噂をすれば」


 串木野先生が俺の背後を見て、鬱陶しそうに目を細める。


「なっはっは! そんな顔すんなよ、いっちゃん! 俺とお前の仲だろ!」


 聞こえてきたのはおっさんのガラガラ声。でも、どこかで聞いた事のある声だった。

 まさかと思って振り返るとそこには予想通りの人物が立っていた。

 口周りに濃いひげを生やした坊主のおっさん。

 昔、俺がアリスの病院に走っていた時に周りを気にせず道路に飛び出したことがある。その時に、ひかれかけた車の運転手だった。

 名前は確か――。


「いっちゃんて言わないで。紹介しますね、藤岡権三郎です。今はとある学習塾を運営していますが、ギャンブル狂いのクズです」

「おいおい手厳しいな。それは昔の話だろ?」

「借金。まだ返してもらってませんよ」

「返済期限を決めてないだろうが」

「そういうところが嫌い」


 藤岡さんは話しながら串木野先生の隣にどかりと腰を下ろす。

 重そうに腰を下ろす動作と、ふいーっと一息吐く様子はそこはかとなくおっさん臭さを感じさせる。

 串木野先生は嫌そうに藤岡さんを見ていた。

 一応面識もあるけれど、俺から話しかける気にはならないな。いい出会いではなかったのだから。

 気まずそうにしている俺の表情を察してかアリスが最初に話を切り出す。


「先生と藤岡さんは仲が良いんですね。そんなに砕けた話し方の先生は初めて見ました」

「だろー? いっちゃんは昔から背が伸びねえから、からかいやすいんだよな」

「ひっぱたくよ。一応は私の同級生なので、藤岡とは変に付き合いが長いんです」

「同級生!?」

「アリスさん、そんなに驚くところですか?」

「本当に同級生だぞ。いっちゃんは面倒見もよかったからモテてたよなー」

「ろ、ロリコンクラス……」

「アリスさん!?」

「はっはっはっは!」


 アリスは早くも先生たちの輪の中に馴染み始めていた。

 アリスの反応に串木野先生は悲しそうに涙目になり、藤岡さんは腹を抱えて笑っている。


 元々は世間体の厳しい俺のバイト先の話だったのだから、俺からも何か話さないと。

 そう思っていた所で藤岡さんと目が合う。

 すると藤岡さんは歯を剥き出しにしながらニカっと笑った。


「よ、久しぶりだな。坊主」


 俺を覚えていたようで、どこか嬉しそうな調子で話しかけられた。


次回の更新は明日になります

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