表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幸福に生きたい不幸なあなたへ  作者: 木鳥
一章・鈴音
23/243

十話・新しい日常

一章からは学校での出来事がメインになります!

最初はクラスの元気っ子、鈴音の話です。何故、鈴音は明るく誰にでも接していけるのか。

不器用なその生き方を少しでも伝えられるよう頑張ります。

 六月の始めごろ。


 いつもと変わらない平凡な朝に少し刺激があった。


「おはようございます。私の名前は上赤アリスです。病気で入院していて、わからないことも多いですが気軽に話しかけてくれると嬉しいです」


 四月まで幽霊だった少女、アリスが俺のクラスに転校してきた。


 ……いや、正直自分でもおかしなことを言っている自覚はあるが、これは紛れもない事実なのだ。他に表現の仕様がない。


「これからも、末永く、よろしくお願いします」


 最後の挨拶が、どうも転校時のものには似つかわしくなかったのでクラスから笑いが起こる。


「なんで結婚みたいな挨拶なんだよ」

「面白そうな人だね」

「すごい可愛い……。モデルみたい」


 反応は多種多様だが、第一印象は好印象をもって貰えたようだ。


「優作! 綺麗な人だね!」


 隣の席のショートボブな快活女子、鈴音が満面の笑みで話しかけてくる。クラス全員友達である鈴音にとっては、新しい友人が増えるという意味で目を輝かせているのだろう。


「そ、そうだな……。俺もビックリしてる」


 アリスが転校するなんてマスターから一切聞いていない。これは、上手く隠されていたな。


「それじゃあ、アリスさんは山元くんの後ろの席に座ってください。」


 窓際最後尾の俺の背後がアリスの席になるようだ。


 クラスの男子から羨ましそうな視線を向けられる。そりゃ、俺だって何も知らなければ多少は嬉しいが、あの件以来アリスとはそこまで話す機会がなかったので、どちらかというと気まずい。


「よろしく! アリスさん!」


 俺と鈴音の間をアリスが通るとき鈴音が元気に挨拶する。


 初対面の相手にこうもフレンドリーに接する所は、鈴音のかなり秀でた強みだろう。


 アリスも一瞬だけ驚いたが、鈴音に笑顔を返す。


「うん。よろしく。」


「ふわあ」


 妙に上品な風格漂うアリスの雰囲気に鈴音が頬を赤らめた。


 アリスは俺の方を一瞬だけ見て目が合う。


 しかし、なにか言葉をかけてくれるのではなくそのまま素通りして着席したのだった。


 う、背後にアリスがいると思うと妙に緊張するな……。


「朝のホームルームは終わりでーす! 大門寺くん、お願い!」


「はい! 起立! 礼!」


 クラス委員の大門寺の挨拶でホームルームは終了する。


 後ろの席なので一限目が始まる前に少し会話しようと思ったが、俺がアリスに話しかけるよりも先に閃光のごとき速さでクラスの女子陣に囲まれていた。


 こ、これは。


 噂に聞く転校初日の洗礼ってやつか……。


「おはよう、アリスさん!」

「前の高校どこ?」

「すごい綺麗な髪! お人形さんみたい!」

「……え!? あ、その!」


 怒涛の質問責めにアリスが困り顔だったのが隙間から見えた。


 見るからに困ってそうだし、俺から助け船を出すか。


「なあ、アリス――」


「アリスちゃん! 友達になろー!」


 我がクラスのハイテンションコミュ力お化け、鈴音がアリスに着弾した。

 うん、もう駄目だ。俺にはどうすることもできん。


 相変わらずコミュ力がすごい、開口一番がそれとは。流れ的に何かおかしくないか。


 まあいいや、次の授業の準備をしておこう……。

 俺は引き出しに手を突っ込んで教科書を探るのだった。






 午前中の授業が終わる。


 アリスは既に必要な教材を揃えていたようで、転校生あるあるの教科書を共有するイベントは発生しなかった。


 まあ、同じ学校といっても初日だしそこまで関わりはないかと思い始めた時、事件は起こった。


「アリスさん! お昼食べよう!」


 案外人見知りもしないアリスは、休み時間の度に誰かに話しかけられていた。


 みんなアリスの事を知ろうとしてくれいるのだ。しばらくはこんな調子が続きそうだけど良いことだろう。


 アリスは俺のように学校で悪い意味で浮きそうにも無かったので安心する。ボッチだったらどうしようかと思ったが杞憂だったらしい。


「ん、ごめん。もうお昼食べる人いるから、また今度でいい?」

「あれ、そうなの? 全然良いけど……」


 アリスの一言を不思議そうに同意した女子たち。朝から自分たちと喋っていたので、意外だったのかもな。


 俺はそんなことを考えながら、学校に来るときにコンビニで買ったパンを取り出す。


 いつもならオカ研にでも行って部室で食べるが、今日は部長の友華が昼休み用事があり部屋が開かないので教室でボッチ飯だ。


 そう思った矢先、背後から背中を優しく叩かれる。


 振り向くとアリスがそれはそれは、待ち望んでいたかのようにワクワクした笑顔で俺を見ていた。


「山元、一緒に食べよ?」


 まさしく瞳のなかがキラキラしているような愛くるしい小動物のような顔から放たれた誤解を生みそうな一言。


 それが、アリスが学校で俺に発した初の言葉だった。当然教室も凍りつく。


 さあ、どう誤魔化したもんか……。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ