九話・小さな世界の大きな変化
二ヶ月後。
学校は文化祭が近づきどこか浮わついた雰囲気が流れる。そんな中俺はというと、しっかりと授業に出るようになって以来、クラスにも少しだけ馴染み始めていた。
朝のホームルームの時間、外の雲を眺める。トイプードルみたいにモコモコした雲。アリスならきっと、猫と言うだろう。
あの件以来、よくアリスの実家でもある喫茶店【司】を訪れるようになった。店名の由来は、マスターの祖父の名前かららしい。
アリスはあの後病院に戻りしばらくリハビリしている。まあ、無意識に体は動かしていたので全く歩けないほど筋肉が衰えてはいなかったそうだが。
そんなわけで、アリスとはあまり話せていない。
あの、まるで夢のような濃密な三日間を過ごした割には、あっさりとしている気もするが、現実なんてそんなもんだった。
自分の行動で何かを変えれたなんて実感することは本当に少ない。
今回の俺の行動は、アリスの家族を少しでも笑顔にできたと自画自賛することで満足しておこう。
あ、だが、一つだけ。
俺の周りで大きな変化があった。
教卓と同じくらいの身長の先生が、突然含み笑いを浮かべて手を広げる。
「むふふー! 実は! 今日は皆さんにサプライズがありますよ!」
生徒が騒々しく何事かと話し合う。
満足そうにそれを見つめてから、先生は廊下の方に声をかけた。
「入っていいですよ!」
声に呼応して一人の少女が教室に入ってくる。それまで騒がしかったが、その瞬間教室は音が消えたように静まり返った。誰もがその少女に目を奪われているのだ。
まあ、それも仕方がないだろう。
絹のように綺麗な珍しい銀色の長髪に、白い肌。ほどよくぷっくらとした唇と、顔全体のバランスがまるで黄金比だと感じてしまうような目と鼻の位置。
目の前の少女は、大方この世のものとは思えない絵本のお姫様のような美しい容姿をしていた、のだから。
「おはようございます。私の名前は上赤アリスです。病気で入院していて、わからないことも多いですが気軽に話しかけてくれると嬉しいです」
そう言ってその少女はクラスを見渡し、最後に俺と視線を重ねた。
そして楽しそうに笑顔を浮かべる。諦めでも、後悔でもない、この先の生活に期待を込めたような笑顔を。
「これから、末永く、よろしくお願いします」
俺の周りの変化。それは。
クラスメイトが一人増えたことだ。
序章はこれにて完結になります。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
一章はオカ研のとある少女が抱える問題についての話になります。
少し長くなってしまうのですがお付き合いいただけますと幸いです!




