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幸福に生きたい不幸なあなたへ  作者: 木鳥
五章・友華 二部
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   最後の作戦②

 昨日、文化祭が終わった。

 今回の文化祭では鈴音先輩のトラウマも解決しないといけなかったので、これまで繰り返した中でも最も精神的に疲労した。

 でもまあ、これが私の干渉する最後の世界なのでそう思うと疲労困憊の中に少しだけ悲しい気分もある。

 そして、重要な結果の方は。


「まさか、本当に成功するなんてね……」


 校長宅のリビングでソファに寝っ転がりながら独り言のようにそう呟いた。

 鈴音先輩の抱えていた問題は、今回が最後だと決心した矢先に解決できてしまった。過去に八十回近くもやり直していたのが嘘のように、物事がトントン拍子で解決していったのだ。

 お陰で、文化祭では事故が起きてアリス先輩が大怪我をする未来もあるのだけど、そこにも十分な対策を取ることが出来た。


 一番大きかったのは優作先輩が、鈴音先輩を文化祭直前に学校に連れてこれた事だ。それによって他の様々なアクシデントを未然に防ぐことが出来た。


「結局は校長の言うとおりだったってことね」

「そう言っただろう。まあ、解決したのならば経緯は気にしないでいいではないか」


 ソファの後ろにある机で、コーヒー片手に新聞と睨めっこしながら校長が反応する。いつも思うのだけれど、サングラス付けたまま新聞って読めるものなのだろうか。


「解決しちゃうと、私が八十年も何をしていたのか考えちゃって虚しくなるのよ」

「嬉しくはないのか?」

「それはもちろん嬉しいのだけれど。それ以上に、自分の不甲斐なさが情けなくなるわ。学校のテストなら常に満点を取れるのに、肝心な部分で無能なら意味が無いもの」


 今回で終わりにするとは決めたものの。

 天井を見つめていると本当にこれでいいのかという葛藤が未だに襲ってくる。

 この選択は優作先輩を見捨てるのと同じなのだから。


「勉強が出来る人間が何事も出来るというわけではない。ただ勉強が得意だというだけだ。人間には生まれながらの才能というものがある、貴様はもっと周りを頼ることをすればよかったのだ」

「時間を改変する才能ってなんなのよ。いえ、待って、結構かっこいいわね」


 私が中学二年生だったら間違いなく自分のコードネームにしていた。


「でも、お前のその考えは好きじゃないわ。何でも才能で片付けて努力をしない人間は嫌いなの。友華ちゃんは勉強が出来て凄いねって言われるけれど、それは私が昔寝る間も惜しんで勉学に時間を費やしたからなのよ。他の子が遊んでいる昼休みに教室で教科書を読んでいたから、自然と身に着いただけよ」

「ふ、はは」


 珍しく校長が少し声を挙げて笑った。

 そんなに変な事を言ったつもりは無いのだけれど。


「何よ。私のボッチ話がそんなにおかしかったかしら」

「いや、そういう訳ではない。貴様は偶に精神的には八十歳だと言うが、そのような考えをする辺りまだまだ子供だと思っただけだ」

「……誉め言葉と受け取っておくわ」


 若く見られたという事だ。

 決して馬鹿にされた訳ではない。はず。


「いいか。才能がある者は短時間で要領を理解する人間ではない。それは人より器用に行動できるだけだ。才能というのは、努力できること。ただ器用なだけの人間は逆境に弱い。挫折をしてそれでもいじけず純粋に物事に取り組める者だけが、才能がある者であり成功を修めることが出来る。個人によって熱中できるものが違う以上、才能の違いはその辺りで出てきてしまうのだろうな」

「……つまりは努力できる人は凄いって言いたいのね。お前はいつもまどろっこしいわ」

「そんなところだ」


 何でわざわざ今こんな話をするのだろう。

 私には才能がないってことは、もっと努力をする根性もない人間だと思われているのだろうか。


「悪かったわね。挫折しちゃって」

「そういう意味ではない」

「今更遠慮なんていいわよ。私はどうせ先輩を見捨てるのだから」

「如月。メンヘラもいい加減にしろ」

「ヘラ!?」


 校長から指摘されて固まる。

 私ってメンヘラなの……?


「そうだろ。私は励ましているのに、勝手に誤解するな」

「励ましてって……。才能ないって言ったじゃない」

「才能が無いとは言っていない。言っただろう、努力を出来ること自体が才能だと」


 校長の今までの発言を思い返してみる。

 た、確かに私の才能が無いとは一言も言っていなかった。

 え、ということは……。


「もしかして、本当に励ましてくれてたの?」

「さっきからそう言っているだろう。これまでよく頑張ったと称賛しているのだ」

「っふ、お前って友達少なそうね。いい奴なのに」

「……」


 睨まれた。


「ごほん。そういえば斉場が何か企んでいるらしいぞ、楽しみにしていろ」


 バツが悪くなったのか新聞を持ってリビングから出ていく。

 最後に何か不穏な事を言っていた。

 私はソファから立ち上がり、ずっと寝っ転がっていて固まった腰を前後に曲げる。


「……嫌な予感がするわ」


 その数日後だった。

 オカ研の肝試し大会に誘われたのは。


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