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幸福に生きたい不幸なあなたへ  作者: 木鳥
五章・友華 二部
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   アリス②


「はい、皆集まってるー?」


 昨日の件、結果としては誰も死ぬことなく無事に優作先輩とアリス先輩に接点を作ることが出来た。

 四周目にして遂に乗り越えたのだ。。

 しかし私は全くもって喜ぶことが出来ない。

 今まで考えないようにしていたけれど、本当の地獄はここからなのだから。


「いや、今二限目なんすけど。僕何で呼ばれたの……」

「サボリ兼今後の話し合い。部室では優作先輩とアリス先輩がいちゃツイてるから、ここにしたの」

「校長室でサボリとは二人ともいい度胸だな」


 私は今、校長と孝宏先輩を校長室に集めている。


「ひえええ、これは、友華ちゃんに呼ばれたからなんすよ!? 断ってもひどい目に合うのはわかってるから、こうするしかなかったんです!」

「わかっている、冗談だ。貴様の成績なら多少は問題あるまい」

「冗談とか言うんすね……。分かりづら」


 校長と孝宏先輩の仲も良好のようで何よりだ。

 来客用のコップに麦茶を注いでから、孝宏先輩と向かい合うように対面のソファに座る。


「はあ、疲れたわ」


 麦茶を飲んだら少し気が抜けてしまい、大きなため息と弱音が漏れる。


「友華ちゃんがそんなに疲れるなんて珍しいね」

「当然よ……。アリスの件は何とか片付きそうだけれど、問題はまだまだ山積みじゃない。どうせ、お前は何が起こるのか知っているのでしょう?」


 心配して話しかけてくれた孝宏先輩は、バツの悪そうに苦笑いした。

 この人が何かを隠しているのは流石に四回も同じような時間を経験したからわかる。


「う! まあ、アリスって人の問題があったから言わなかっただけだよ。本当に」

「わかってるわよ。お前は何だかんだ気遣い出来るものね。それで、何を隠しているのかしら」


 孝宏先輩は相槌を打った。

 この人の隠し事と聞くと嫌な予感しかしないのは何故だろうか。校長も万年サングラスをかける謎多き人物だけど、孝宏先輩は人としての謎というよりも腹の底が知れない不思議さがある。

 こんなに馬鹿っぽいのに。


「えっとね、鈴音ちゃんの事だよ。もうすぐ始まる今年の文化祭で、鈴音ちゃんがかなり心を病むっぽいんだ」


 はい、嫌な話きた。

 この期に及んで先輩たちはまだ災難に見舞われるのか。

 もう何かしらの呪いとかそんな類で不幸になるよう誘導されているんじゃないかしら。


「急に凄い情報きたわね。理由は?」

「未来視で鈴音ちゃんの父親が亡くなってる光景が見えた。その場所に僕と優作、鈴音ちゃんの三人で居合わせる。随分時間が経ってた死体だったよ」

「聞いてるだけで、不快な気分よ……。そう、そんなことになるの」


 思わず頭を抱えてしまう。

 死ぬ、死なないの話はもう嫌なのに。

 何で日本に住んでいて人の死をこんなに近くに感じないといけないのだろう。

 そんな私の戸惑いなんて知る由もなく、校長が口を開く。


「如月。貴様は坂上についてどの程度知っていることがあるのだ?」

「そうねえ、天真爛漫なハイテンションな先輩って感じだけど、本性は結構物静かな人見知りする子ってところまでは知っているわ。最初にいた時間では、鈴音先輩の問題が解決した後だったから。詳しくは聞いていないけれど、父親がいないのと昔から施設暮らしっていうのも」

「あ、鈴音ちゃんの今住んでる施設の方にはオカ研で何度か行ってるんすよ」


 私が鈴音先輩について知っているのはこのくらいだけれど、結構有用な情報だと思う。

 鈴音先輩は傍から見たら多重人格のように二つの態度を切り替える。あくまでも本人の意思で行われていることなので、精神的な病気ではない。

 きっと鈴音先輩が他者から自分を守るための防衛手段として、そのような選択をしたのだろう。このことを学校で知っている人は殆どいない。生徒だと私と孝宏先輩くらい。それ程までに鈴音先輩の演技は完璧だ。


「そうか……。坂上は今の時点でかなり不安定な心身状態だからな。串木野先生も時折心配している」


 あの人も気づいているのね。

 やっぱり、優作先輩が憧れるだけはある。


「いちきは気付いているのね。流石だわ、人を見る目に関しては天才じゃない」

「うむ。串木野先生は人格者だからな」

「校長って串木野先生に対してめっちゃ褒めまくりますよね」

「っし、察しなさい」

「聞こえているぞ。今日の夕飯はピーマンの肉詰めにしてやろう」

「ごめんなさい」

「あ、苦手なんだ」


 話を明るい方向に逸らしたけど、アリス先輩の後は鈴音先輩の問題のようだ。

 今度は、何回かかるのだろう。

 一度ミスをしてしまうとそれを取り返すためにもう一度最初からやり直さないといけない。私の能力は、途中セーブのない昔のゲームのようなクソ具合だ。

 その事を考えると、自分の心にどっと重いものが圧し掛かった。


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