部員集め⑤
「おっはようございます!」
朝から二年の教室に来たのは、昨日私が声をかけていた一年生の鈴音先輩だ。
満面の笑みで来たので、用事は大方予想がつく。
私はどうせオカ研の部室に行くつもりだったので、鞄を持って教室の入り口に向かった。
「おはよう、鈴音。私にかしら?」
「はい。昨日、友華先輩に言われて気づいたんです。偶には自分のしたいことをしてもいいって。だから、これを!」
そう言って私に一枚のプリントを渡してくる。
それは入部希望書だった。
「部長のサイン、お願いします!」
「ふふ、お前がそうしたいなら歓迎するわ。あと――」
鈴音先輩から紙を受け取って、自分の名前をそこに書く。
後はこれを顧問に提出するだけだ。
まだ顧問は決まってないけど。
「私にはタメ語でいいわ。敬語を使われると変な気分なの」
そう言って私は鈴音先輩の入部届を預かった。
ここまでは予定通り。
部活の創設まであと一息だ。
―――――――――――――――――
「というわけで、オカ研に入部予定の鈴音だよ! よろしく!」
放課後。
キュピーン、という効果音が出そうな振りを付けながら部室に来たのは鈴音先輩だ。
優作先輩は何故かその様子を苦笑いしながら見ている。
「罪悪感が凄い……!」
「何の話?」
「気にしないでいいわよ。偶に変な事を言わないと死んじゃう病気だから」
「可哀そう」
四人でこの部室にいるといつものノリが帰ってきたようで懐かしい気分になる。
未来で優作先輩が亡くなって以降、こんな空気間は久しぶりに味わった。
「鈴音ちゃんが入ってくれるなら四人揃ったってことになるね」
「そうね。全員が入部するのならすんなりとオカ研も作れるとは思うわ」
「また含みのある言い方する」
私が聞いた事のある話だと、優作先輩と飛鳥先輩は二年の夏ごろに入部したらしい。
つまり今の時点で部員の創設に必要な四人に満たない人数で部を作らなければならないという事だ。
私の知っている流れでは実際にそうなっているようなので、何か方法があるのだろう。
「優作。お前は今の時点でこの部活に入るつもりはあるのかしら?」
取り敢えず優作先輩に鎌をかけておく。直前で断られたら面倒だし。
「ああ、そのことなんだけど。親と話せてなくてな。入部届は直ぐには出せそうにない」
「……そう」
優作先輩の親。
母子家庭なので母親一人を指しているけれど、なるほどそれが理由だったのか。
先輩は母親と本当に上手くいっていない。未来では優作先輩の母親は先輩を刺し殺しているけれど、責任能力の欠如を理由に病院に入れられてしまった。
そんな人に何を話しかけるのも勇気が必要だろう。
変に急がせて先輩がまた殺されては元も子もないし……。
「じゃあ、お前の入部はいつでもいいわ。廊下で盗み聞きしている優等生さんもね」
「っ!? き、気づいてたんですか」
建付けの悪い部室のドアなので最後に開け閉めした優作先輩が完全に閉め切っていなかった。
その隙間からチラチラ顔を出してこちらの話を聞いているのだから、角度的に私には見えていたのだ。
「飛鳥、とかいったわね。いい趣味してるじゃない」
「ち、違いますって! その、一年の中でも問題児って言われてる三人が揃ってるから何か悪い事でもすると思って……」
「俺がこいつらと同じ? 心外だな」
「そうだそうだ!」
「私は普通じゃない!?」
「三人とも同類よ」
飛鳥先輩はまあ、俗にいうツンデレってやつだ。
未来でもそうだったけど、素直になれずについキツイ当たりをしてしまう事がある人。慣れれば可愛いだけの萌えキャラになるのだけど。
「違うわよ。飛鳥は優作が楽しそうにしているのを見て、うちに興味が湧いたのよね」
「楽しいなんて一切思ってないぞ」
「違います! その、本当に、お、幼馴染として心配だっただけで」
「鈴音」
「はいよぉ!」
鈴音先輩が飛鳥先輩を部室の中に引き入れて入り口を完全に閉めた。
ソファに座らせられた飛鳥先輩を全員で囲む。
「っひ、えっと、その」
「ふふ、怖いことはしないわよ。安心して。今は口約束でいいから部に入部するって言ってくれればそれでいいの」
「ひぇ」
部員集めは順調そのもの。
三人で部を創設するのは、校長に裏から手を回してもらうとして。
優作先輩と飛鳥先輩の言質も取り、残る先輩は一年後に転入してくるアリス先輩だけとなった。




