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幸福に生きたい不幸なあなたへ  作者: 木鳥
五章・友華 二部
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   部員集め④

「いまゴールしたのが鈴音ちゃん?」

「ええそうよ。やっぱり足速いわね。二年のレギュラーより先にゴールしたわ」

「なあ、友華。お前って頭良いんだよな?」

「藪から棒に何よ? 過去の偉人以外に私よりも頭の良い人間には会ったことないわよ」

「俺帰っていいか?」

「優作、ここまで来て帰るなんて男らしくないぞー」

「恥ずかしいんだ!」


 私は今、優作先輩や孝宏先輩と一緒に鈴音先輩を監視していた。

 グラウンド横の体育館で演劇部から借りた木の張りぼてで全身を隠しながら。


「何でこんなもん着ないといけないんだよ!」


 優作先輩が怒って張りぼてを脱ぐ。


「お前と私の顔は鈴音に割れてるでしょ。だから見ていることに気づかれないように演劇部に変装道具借りに行ったらこれを渡されたのよ」

「むしろ悪目立ちするだろ!?」

「折角借りたのだから、着ないと失礼じゃない」

「友華ちゃんって変に真面目なところあるよね」


 確かに周りからかなり視線を浴びているけれど鈴音先輩なら気づかないのではないだろうか。あの人、鈍感そうだし。

 流石に馬鹿にしすぎかな。


「俺はもう着ないからな。こんな馬鹿みたいな格好ごめんだ」

「あら、格好だけで人間の知能は測定できないわ。偏見程恐ろしいものもないわね」

「屁理屈はやめろよ。よくそんなスラスラ出て来たな」


 優作先輩はそのまま近くに会った体育館の二階に続く階段にどかりと座った。

 なんだかんだ言いながら一応着用はしてくれるのだから、先輩は優しい人だ。


「どぇぇぇぇぇ!? 友華先輩なんて格好してるんですか!?」

「あ、バレた」


 休憩時間に水飲みに来ていた鈴音先輩が素っ頓狂な声を挙げていた。

 どうやら私たちの格好に驚いて声を掛けてくれたらしい。

 怪我の功名というやつだ。


「っふ。どんなもんよ」

「偶々だろうが」


 鈴音先輩がこちら側に駆け寄って来る。

 もうこれ以上この服を着ている意味は無いので、そそくさと脱いだ。

 本題はここからなのだ。

 鈴音先輩をオカ研に勧誘して私の知っているメンバーを集める。飛鳥先輩と優作先輩は二年生の頃に入ることになるそうなので優先順位は低いと思うけど、鈴音先輩は一年生の頃から入部していたらしいから絶対に入れないといけない。


「友華先輩と優作と、その人は……」

「あ、同じ一年の孝宏だよー。初めまして!」

「孝宏ね! よろしくー!」


 そう言って互いに握手をしていた。


「コミュ力の化け物ね」

「俺たちとは真逆だな」

「一緒にしないでほしいわ」


 鈴音先輩は私たち全員を見渡して、首を傾けた。


「えっと、三人はどうして一緒にいるの?」

「オカ研の部員関係だよ。友華ちゃんが部長で僕たちは平」

「ああ、そういう……」


 オカ研と聞いた瞬間に鈴音先輩は表情を曇らせた。

 何で私たちがこんなところにいたのか察したのだろう。


「じゃ、じゃあ私、休憩中だから!」

「あ、待ちなさいって!」

「だ、だってえ……。誘ってくれるのは嬉しいんですけど、直ぐには部活を抜けれませんよ!」


 タッチの差だったとは思うけれど、鈴音先輩は人の頼みを断れない。

 陸上部から誘われてしまった後に、私たちから誘いが来てしまっては先輩の性格上本気で悩んでしまうだろう。


「なあ友華、鈴音も困ってるしこれ以上はやめたらどうだ?」


 優作先輩もそれを感じ取ったらしい。

 仕方ない。鈴音先輩をどんなふうに勧誘しても、今は先輩を追い詰めることにしかならない気がする。


「そうね。それじゃあ、最後に一つ聞いてもいいかしら?」

「うう、何ですか……」

「お前はどっちに入りたいの?」


 鈴音先輩は他人に気を遣いすぎてしまう。

 未来でもそのせいで偶に自分の意思を蔑ろにしてしまうような場面があった。

 私の知っているオカ研に鈴音先輩は入っているのだ。

 ずるい気はするけれど、この質問の答えはわかりきっている。


「ええと、それは……」

「まあ、決めるのはお前よ。部活くらい自分がしたいものを選んだっていいじゃないの。そんな程度でお前の事を嫌うなんて逆に心が狭い奴だと笑ってやりなさい」

「友華先輩……」


 鈴音先輩は不安そうにしながらも私をしっかりと見据えていた。


「私はいつでも待っているわ。お前は、自分の好きなように生きなさい。取り敢えず、今は陸上を頑張ってきて」

「はい! えっと、ありがとうございました!」


 そう言って鈴音先輩は満面の笑みを浮かべると、グラウンドの方に戻っていった。

 私は言いたいことを言えたので満足して額の汗を拭う。


「ふう。これで入るでしょ。上手い事誘導できたわ」

「うわぁ、最低だ!」

「清々しいくらい終わってるな……」


 先輩、もとい二人の後輩がドン引きしたような目で私を見ていたけれど、背に腹は変えられない。

 あとは明日がどうなっているのかを待つだけだ。



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