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幸福に生きたい不幸なあなたへ  作者: 木鳥
五章・友華 二部
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   部員集め②


 今朝は目覚まし時計の耳障りなアラームで叩き起こされた。

 本当なら遅刻ギリギリの時間を見極めて寝て起きてを繰り返すのに、今日はそれを許されなかったのだ。

 普通の学生同様の時間に起こされて、制服に着替え朝食の席についている。


「ふわぁ。何だってこんな時間に起こされないといけないのお……」

「早起きは三文の徳だ」

「春眠暁を覚えずよ」

「朝寝八石の損だな」

「マイナーなの知ってるわね……。そこは、夜なべは十両の損とかじゃないかしら」 


 校長と朝から下らない言い合いをする。

 エプロン姿の禿げ頭が、目玉焼きやベーコンの載った皿を机に並べる光景はシュールだ。


「御託は結構だ。私の家に住む以上学校に遅刻するような真似は許さん」

「はいはーい。いただきます」


 出された朝食をおとなしく口にする。

 過去に戻ったは良いものの本来の自宅にはこの時代の私が住んでいるので、昨日から校長の家に寝泊まりさせてもらうことになった。


 二階建ての一軒家。

 一人暮らしの校長にしては広すぎる家だと思ったが、話を聞くと何でも昔は結婚していて今は別居中らしい。

 かなり気まずい空気になったが、お陰で私は一人部屋を確保することが出来た。


「朝食って毎朝こんな感じなの?」

「曜日によるな。和食と洋食を交互にという感じだ。苦手なものがあったら言っておけ」

「ないわよ。意外に家事能力あるのね」


 今朝に関しては何も知らなかったので、結構驚いている。

 冷徹な人間だと決めつけていたが、世話焼きな一面もありそうだ。


「それで、今日から部員を集めるのか?」


 湯気が出ているコーヒーを一口飲んで、校長は私に話しかけてきた。


「ええそうね。でもまあ、優作せんぱ――優作と孝宏は部に強制的に入れられる弱みを握ってるから、後は鈴音かしら。でもあの子も、もともとオカルト好きらしいから何とかなると思うわ」

「楽観視は危険だ。人の行動を決められる程、貴様は大人ではないのだからな」

「わかってるわよ。いちいち煩いわね」


 鈴音先輩に関しては本当にそんな心配は不要だ。

 あの人ほどオカ研のムードメーカー的存在はいないわけだし、好きな分野の勧誘が来たらコロッと落ちるに決まってる。


「見てなさい。この程度校長の力を借りるまでもないわ」

「そうだといいがな」


 そんなこんなで朝食を食べ進めていたのだが、特に前振りもなく私はふと気になることが出来た。


「そういえばお前って、本名はなんて言うの?」


 家でも校長呼びは少し違和感を感じる。

 せめて名字とかで呼んだ方が、校長も公私の分別が出来ていいのではないだろうか?


「……田中次郎だ」

「田中……次郎。っぷ」

「笑うな。失礼だぞ」

「ご、ごめんなさい! その、ふふ、あまりにも普通過ぎて、逆に初めて聞いたというか、くく」


 ヤクザのような見た目とのギャップにツボに入ってしまった。

 田中次郎。

 それが校長の名前なのか。

 目の前でバツの悪そうにしかめっ面を浮かべている校長。流石に悪いのでこの話はもうやめよう。


「改めてよろしく頼むわ、田中さん」

「はぁ、貴様は本当に失礼な奴だ」


 なし崩し的に校長の家に泊まったわけだけど、この選択は後悔するようなものではなかった。

 この人は私が思っている以上に本来はとっつきやすい性格なのかもしれない。

 朝から校長に対して幾つかの発見をしながら、私は学校に足を運ぶのだった。



――――――――――――――――――――



 二年の教室に向かう前に、私は一年生がいる教室に来た。

 鈴音先輩を部活に誘うためだ。

 その辺にいた男子生徒に話しかける。


「あ、お前、少しいいかしら」

「む、何だ!? おお、先輩でしたか! いやはや済まない、タメ語で失礼した!」

「いいわよ別に。坂上鈴音って生徒を呼んできてくれないかしら?」

「了解! 少し待っておいてください!」


 大柄な男子生徒は声が大きかった。

 この勢いなら鈴音先輩にも話は届くだろう。


「あ、おはようございますー」


 三つほど向こうの教室から、鈴音先輩が顔を出して私に気づくと元気な挨拶をしながら駆け寄ってきた。

 可愛い。


「おっほん! おはよう鈴音。昨日ぶりね」

「はい! そうですね! 友華先輩から呼ばれてるって聞いてびっくりしちゃいました」


 鈴音先輩は笑顔になったかと思ったら不安そうに口を閉じる。

 本当に表情豊かな人だ。


「実はお前にうってつけの話があるのよ。私、オカルト研究会を作ろうと思うのだけれど是非入部してくれないかしら。そういうの好きなのでしょう?」

「ぶぇ!?」


 聞いたことない声出された。

 鈴音先輩はまるで生まれたての小鹿のように足をがくがくと震えさせる。


「あ、ええと、ええ、その……」

「どうしたの? 何か問題でもあったのかしら?」


 鈴音先輩は本当に申し訳なさそうに俯きながら、想像もしていなかった一言を発した。


「すみません! 私実は、もう陸上部に入っちゃったんです!」

「……え?」


 ひゅうう。こいつは不味いわね。


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