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幸福に生きたい不幸なあなたへ  作者: 木鳥
序章・アリス
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   アリスとの出会い②

「この人どこ見てるんだろう?

 私の後ろに何かいる……わけないし。もしかしてあれかな、トラックの音にビックリして腰を抜かしちゃった?

 いやいや高校生でそれはないよね、うん」


 少女が後ろを振り向く。そして、何もない歩道を見て首をかしげた。俺が何で困っているのかを理解していないな……。

 俺は状況への困惑と相手の容姿、それらに二重の意味で呆気にとられている。心拍数は相変わらず普段よりも多い。


「いや……あんたを、見てた。その、綺麗ですね」


 やっとの思いで振り絞った声は、ひどいナンパの口上みたいなもんだった。

 しかし、少女は俺の言葉に鳩が豆鉄砲を食ったような顔になり、それまでクールという言葉が似合いそうだった目を大きく見開く。


「ぶえ!? み、見えてるの……?」


 疑い八割、期待二割の感情を俺に向けてくる。改めて視線を合わせると少女の非現実感が強まる。本当に人形みたいだ。


「あ、ああ。見てた、車が通っていくところからな――、藪から棒になんだがもしかしてあれか? 不可思議なオカルト的なやつか……?」

「ひゅー。どろどろ~、のやつ?」

「多分それのことだ」

「かきーん。ころころ~、のやつ?」

「野球じゃない」

「ざぁー。ゴロゴロ~?」

「雷か」

「じゅー、はふはふ、もぐもぐのやつ?」

「焼き肉か。って話をそらすな! 真面目に聞いてるんだ!」


 俺よりも背の低い少女は、何を考えているのかわからない程の無表情でジェスチャークイズのようなものをしていた。

 ますます訳がわからん。


「ご、ごめん! まさか私が見える人が他にもいたなんて……。ビックリして冗談言っちゃった」

「この状況でよく冗談言ったな」


 見た目に似合わず結構愉快なのか?


「うん、じゃあ冗談は終わり。

 そこから、動かないで」


 なんて、俺の軽口をよそに少女はその清らかな腕を伸ばしてきた。

 突然俺の肩に手を置き顔を近づけてくる。

 な、何をするだ!と、その腕を振り払えば良かったが俺はどうしてか動揺するだけでその行動を拒絶できなかった。


「大切なことを聴く。あなたも真面目に答えてね」


 既に目と鼻の先にある少女の顔。互いの吐息が一定のリズムで交差する。

 一瞬か数秒か、視線を合わせる。聞こえているのはもはや釣れた魚のようにバタバタと暴れる自分の心音だけだ。

 そして、少女はおもむろに俺の耳元に口を近づけ――、


「私の、過去を知らない?」


 下半身を宙に浮かせて、はっきりとそう口にした。


「し、知らない! それじゃ達者でな!」


 その時、恐怖が限界を迎えた。

 目の前で人が轢かれた時は電柱のように微動だにしなかった足が、情けないことに幽霊女の囁き一つで堰を切ったように躍動したのだ。

 徒歩三分ほどの我が家まで、止まること無く俺は逃げる。


「……やっぱり、駄目だった」


 動き出し幽霊女に背を向けた瞬間。背後からそんな声が聞こえた気がした。



―――――――――――――――――――――――――――――――



「――っていうことがあったんだよ」


 次の日。放課後。高校二年生として学業に励む苦行から解放され、俺は知り合いに昨日あった恐怖体験について話をした。


 部室棟の三階の最も階段から離れた位置。


 ここだけ建て付けが悪く、重い木製のドアを両手と体重を使って開くと出迎えてくれるのは学校には不釣り合いな高級そうなソファ。黒塗りの長机。そして、部長と書かれた立て札とそれが置かれた黒塗りのこれまた高そうな一人用机だ。


 普通の部室とはかけ離れた快適な部屋。

 これはわが校の【オカルト研究会】、通称オカ研の部室である。


「へえー、お前も大変なのねえ。あーもうまた出なかった! 確率どうなってるのよ!

……そろそろ課金かしらね」


 俺の相談を部長席に座り、スマホをいじりながら聞いていたのはオカ研の部長如月(きさらぎ) 友華(ともか)だ。


 三年間成績一位を取り続けている誰もが認める天才。その上容姿も整っており、黒髪ロングで巨乳。こんだけの要素があるため学内男子からの人気は絶大。

 といえば聞こえは良い。

 恐らく今年の三年の中だと一番の有名人。


 実態はオカ研の創設者でもあるが、本人はオカルト的な出来事への興味は薄く、のんびりできるスペース欲しさに作ったと言うほどの行動力のある問題児。

 自分の興味のある事にしか積極的に取り組まず、授業にも滅多に顔を出さない。


 自堕落クイーンの異名を授かっている。


「話聞いてたか? どう見ても俺よりガチャに意識を向けてたよな」


 一年前にとある出来事で友華とは知り合い、以来敬語をやめてフレンドリーに接するよう指示されている。敬語を使うと不機嫌になるのだ。

 友華はスマホ画面から視線をずらし、やっと俺を見る。


「聞いてたわよ、藤岡先生の不倫相手の話よね?」

「違うわ! 俺の話は……違うけどなんだそれ? 教えてくれ」

「冗談よ。女の子の幽霊に会ったって話でしょ?」

「まてまて! 話を聞いてなかったのと、先生の不倫のどっちが冗談なんだ!?」


 むしろ俺の悩みよりも深刻そうな話が出てきたが、友華は気にせず机にスマホを置いてノートパソコンをいじり始める。

 カタカタと小気味良くタイピングしながら、俺を見ずに声だけ発した。


「交差点にいた幽霊のことだったわよね。……っと、これかしら?」


 そして、何かのページを開いて俺にパソコンの画面を見せてくる。

 そこには、俺が昨日いた住宅街の交差点が写った写真と大きな見出しで『怪異!住宅街に現れる怨霊!!』という文字が書かれていた。


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