もう一度あなたに会うために②
「それで、何の用があって私を訪ねて来たのかしら?」
駅前の喫茶店でカフェモカを飲みながら、孝宏先輩に質問した。
学校前で拾われた後、どこか落ち着いて話が出来るところに行こうと言われたのでここまで車で送ってもらった。
当然新学期早々に学校をサボってしまうが、正直孝宏先輩との会話の方に好奇心が持っていかれたので気にならない。
「まあ、直ぐに本題に入るのもあれだし、少し雑談しようよ。最近学校はどう? 楽しい?」
「どうって……。七海から聞いているでしょう?」
「そうだけどさ、折角なら友華ちゃんからも聞きたいなって」
大学生になっても孝宏先輩は変わりないらしい。
その様子に不思議と安心を覚えた。
私の向かい側の席に座ってコーヒーに鬼のように砂糖を入れている。
「こっちは変わりないわよ。七海や燈子が馬鹿な事をして、私が止めているわ。全くいつまでも子供で困るわよね」
「そうなんだ。七海は二人が暴走して自分がブレーキ役って言ってたから、皆元気ってことなんだね」
「ふ、七海の戯言よ。真実はいつも私の言葉じゃない」
まったく、七海のも困ったものだ。
いつも私が暴走する二人を止めるポジションにいるというのに。
孝宏先輩が生暖かい視線を向けてきたが、何故そんな目で見てくるのかは皆目見当もつかない。
「私たちの事よりも、先輩方はどうなの? いま何をしているのか、全然わからないわよ」
敢えて深く言及はしないが、先輩たちは優作先輩が亡くなってから卒業した後も一回もオカ研の部室に顔を出していない。
もともと引退していたので当然だけれど、卒業式の日にわざわざ体育館まで呼び出して、オカ研の部員で写真を撮ったことも踏まえると私たちではなく部室を避けていたのだろう。
理由も分かる。あそこにいると嫌でも優作先輩の事を思い出してしまうからだ。
私だって入学以降毎日通っていたのに、先輩が亡くなって二週間くらいは足を向けられなかった。
「あ、あはは。それ聞きたい?」
「ええ。こっちの身の上話はしたもの。当然の見返りよ」
孝宏先輩は苦笑いをして頬をかく。
その事から何となく状況は察せるので、より一層興味が湧いた。好奇心を最優先してしまうのは昔からの悪い癖だ。
「わかったよ。まあ、言いやすい方から言うと、飛鳥ちゃんは無事に第一志望の学校に合格して弁護士目指して勉強中だよ。鈴音ちゃんは、保育士になるために専門学校に入ってひいひい言いながら頑張ってる。二人とも勉強が忙しいらしくてあまり会えてないんだよねー」
「そう。二人は予想通りって感じね。勉強で現実逃避できるなんて、いい特技だわ」
「二人なりに優作の事を忘れたいんだよ。いつまでも引きずる訳にもいかないだろ?」
「まあ、そうだけれど……。それで、アリス先輩はどうなの? 変わりなしかしら」
私が聞きたかったのは二人。
そのうちの一人はアリス先輩だ。
優作先輩が亡くなって直ぐに、あの人は……。
「まだ、眠ってるみたいだよ。この前マスターと話したから変わりないと思う」
「……そう。もう二年も寝たきりなのね」
「もともと体が弱くて僕らに会う前も一年間寝たきりだったらしいんだけど、今回ほど長いのはそれでも異常だよ。何の病気かもわからないし……」
「あら、医学部の孝宏先輩でも?」
「僕だってまだ学生だし。……友達を助けることも出来ないのは、悔しいけど」
孝宏先輩が机の上で強く拳を握る。
「ああもう、悪かったわよ。冗談でもいうべきじゃなかったわ。話を変えてちょうだい」
「ごめん。そういえば串木野先生の事は知ってる?」
「知らないわ。お前から聞きたかったのはアリスと串木野先生のことだったもの」
アリス先輩と同様に串木野先生もそこそこ深刻な状態になっている。