残りの時間②
三年の一学期が終わる。
俺たちもオカ研を引退した後だ。
一学期の文化祭はオカ研として経験する最後の行事ということもあり、特にアリスと鈴音が張り切っていて俺はそれに引っ張られるように
何だかんだ色々な思い出が出来た気がする部活動。三年になってからは後輩も出来て更に賑やかになっていた場所。
夏休みを控えた終業式の日に、部室に最後かもしれない顔出しをした。
「よ、お疲れー」
「あ、優作先輩。お疲れ様です」
「こんにちは。孝宏先輩とは一緒じゃないんですか?」
「あいつは校長先生に呼び出し喰らってたよ。何やらかしたんだか……」
部室には一年ズが既に到着していて、燈子と七海は束ねられた紙を二人して見ていたところだった。
「お前、随分暇人なのね。他の人たちはどうしたのよ?」
「アリスは家の手伝い、鈴音も似たようなもんだ。そんで飛鳥は生徒会から仕事を任されてそれをやっているらしい」
「飛鳥先輩って生徒会長なのによく仕事押し付けられてますね」
「燈子ちゃん、飛鳥先輩はそこが可愛いんだよ」
一年ズは友華を覗いてコミュ力が高かったので、オカ研の部員だけでなく学校に馴染むのも直ぐだった。
「飛鳥先輩の事、二人とも詳しいわね……」
友華は最早ここに住んでるのかと気になるレベルでいつものように部室で寝っ転がっている。もしくはパソコンをいじっている。
何でも本当に授業に出ていないらしい。
そうまでして教師に怒られないのか気になったが、一学期の期末テストは全教科満点と文句なしの点数だったので強く出られないのだ。
「それで、お前は何をしにこの部室に来たのかしら? まさか先輩面で冷やかし、なんて理由じゃないでしょう?」
「ん、ああ。悪いが少し机を借りたかった。勉強したいんだけど、ここ以上に集中できる場所なんて早々見つからなくてさ」
エアコンがありソファもある。おまけに利用者はオカ研の部員だけだし。
「あれ、三年生はもう一個の校舎で放課後勉強するんじゃないんですか?」
「串木野先生に事情話したらオッケー出たんだよ。俺は偶にここを使っても良いって。でも特に気にしないで話してくれてていいぞ。少しくらい周りの声あった方が集中続くし」
「了解です!」
何故か七海が敬礼してくる。
「全く、本当にしょうがない奴ね。まだ他の人に進路バレるのが恥ずかしいのかしら?」
「それはそうだけど、お前にも言った記憶ないぞ」
「舐めないでほしいわ。この前解いていた赤本の大学と、普段の会話聞いとけば何となく察しもつくでしょう。教師を目指しているとみて間違いない筈よ」
くそ。このハイスペック女め。
まさか日頃の行動から進路を当てられるなんて……。
「ええ!? 優作先輩、教師を目指しているんですか!?」
燈子が動揺していた。
「あーもう、他の奴らには内緒な。今んとこ孝宏しか知らないから」
「ふふ、任せてください。私がちゃんと見張りますので!」
「七海は口滑らせそうだから、燈子がしっかり見張っててくれ」
「酷い!」
一年生ともこのくらいの軽口を吐けるくらいには仲が良くなった。
この三人は性格的にはてんでバラバラだし趣味も全く違うけれど、不思議と纏まりがある。作戦立案の友華、実行する七海、ブレーキの燈子って感じか。
「まあまあ七海。あ、先輩こそ私たちに気を遣わないでいいですからね。私たち先輩がいてもいなくてもやること変わらないので」
「おう、助かる」
話はこの辺にして、鞄から筆箱とノートを取り出す。
他の人が勉強しているので、俺はその倍しないと大学合格は夢のまた夢だ。宿題プラス孝宏が考えた問題プラス自習の日々である。
勉強中……。
「うん。これはわからん。わからんな」
「……」
「わからん、うーん、わからん(ちら)」
「……」
「うーん……」
「だあああ! もう煩いわね! 何が分からないのよ、見せてみなさい!」
全力でアピールしていたら友華がキレた。
ここに来たもう一つの目的は実は友華に勉強を教えてもらいたかったからでもある。
「ここは、えーっと、ほら! 教科書のこのページ読みなさいな! あと、終わったらこの問題を解いて確認して見なさい!」
「ねね、友華って……」
「うん。お母さんみたいだよね」
性格はあれだが、実は誰よりも教えるのは上手なのでついつい頼ってしまう。
「何で私がお前にこんなことしないといけないのよ」
「まあまあ、今度ジュース奢るから。それに孝宏よりも友華の方が俺には合ってる気がするんだよ。教え方のクセみたいなのが」
「へ、へー……。そうなの。まあ、偶には教えてあげてもいいけど」
「チョロすぎない」
「将来駄目な男に騙されそう」
「お前たち!?」
大学受験まで残り半年。
俺は少しずつだけど確実に、成績を上げていた。
勉強面では友華や孝宏に頼りきっているので、いつか何かの形で恩返ししてやりたいな。




