如月友華との放課後②
放課後の部室で入学したばかりの一年生に馬鹿にしたような目を向けられる。
「優作先輩は高校三年生のくせにこんな問題もわからないのですね」
「うっせえなあ。これでも俺からしたら難しいんだよ。三年の勉強に追いつけてないから、数学とかの理系科目は特に意味不明だ。……まあ、天才の友華様には関係ないが」
「誉め言葉と受け取っておくわ」
「皮肉と受け取れ」
ったく、こいつと話していたら日が暮れる。
何だって会って一日目の奴にここまで弄ばれないといけないんだ。
話すたびに気づいたら友華のペースに乗せられている。
兎にも角にもこれ以上話し続けていたら今日のノルマが終わらないので、シャーペン片手に再びノートと睨めっこする。
友華の指摘だと途中式を間違っているとのことだったが……。
「……うーん」
わからん。
「ああもう。ほら、鉛筆貸しなさい」
「今度は何だよ……」
「間違っているのはこの部分よ。お前の間違え方からして一度図にした方が良いと思うわ。三次関数は式を見た時点で、頭の中で何となく図が書ければ解けるもの。それに答えが合っているか間違っているかも図から考えればわかるわ。少なくとも凡ミスは無くなるでしょうね」
そう言って友華はノートの端に十字を書いて三次関数を図示する。
俺は突然の行動に一瞬呆然としてしまった。
今までのイメージでこいつがわざわざ誰かに勉強を教えるような奴には思えなかったからだ。
「何よ、その目?」
「いや、何か意外だなって。教えてくれるのはありがたいんだが、そういうキャラに見えなかったから」
「あのねえ、人はゲームみたいに属性で割り振られてるわけじゃないのよ? 偏見だけで判断しないでもらえるかしら。まあ、私はその辺昔から誤解されやすくはあったけど」
「でも、俺に教えたところでお前にとってメリットがなくないか?」
「そ、それは、あれよ。暇だったから! 単に気まぐれでこうしているだけよ! 本当は放課後は燈子と過ごす予定だったのに、あの子が急に用事出来て私は手が空いているの。お前は精々退屈しのぎに付き合う事ね」
その時、俺は燈子の言葉を思い出していた。
――友華はこれで結構寂しがりやなんです。
それを聞いたときは半信半疑だったが、今目の前で顔を少し赤らめている友華を見ていると妙に納得できた。
「ぷ、ははっ」
「何で笑うのよ。気持ち悪いわよ」
「いや、悪い悪い。お前って超がつくほどのコミュ障っぽいなって思って。流石の俺もそこまで酷くは無いぞ」
「教えるのやめるわ」
「ごめんごめん! 教えてくれよ、友華先生」
どうやら俺は友華に対して大きな誤解をしていたのかもしれない。
普段の強気な言葉遣いは友華が無意識でやっているもので、そこに他者を遠ざけようという意思は無いんだろう。
燈子が友華の事を友達として信頼しているのが決定的な証拠だ。多分だけど、友華は結構な善人なのかもしれない。
普段は横暴だが、困っている人を見たら放っておけない性格だと思う。
「全く、しょうがない奴ね。いい、この部分は――」
こうして俺は不器用な一年生、如月友華と放課後の勉強会を行うのだった。
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その後。
「あ、優作先輩。一つ聞きたいことあるのだけど」
「どうした? 勉強の礼だし、何でも教えるぞ。この学校の教師の弱点とか」
「是非とも聞きたいけれど、それよりも今はこれよ。この問題、誰かが考えたオリジナルよね。教師の誰かかしら?」
「ん? いや、これを考えたのはオカ研の孝宏だよ。あいつああ見えて頭いいから、勉強教えてもらっているんだ」
「あの人がこれを……、人は見かけによらないものね。飛鳥先輩とかには教えてもらわないの? 世話焼きそうな感じだけれど」
「ああ、その件なんだが、俺が勉強してるのは孝宏以外には内緒にしてるんだよ。恥ずかしいだろ」
「私の前ではしていたじゃない」
「興味ないかなって」
「妙なところで雑よねお前」
「そうだ。俺も一つ聞きたいんだけど、何で先輩呼びするのに一人称お前なんだ?」
「呼び捨てしたらカップルみたいじゃない。そんな破廉恥な事出来る訳ないでしょう? セクハラかしら」
「……お前、今まで彼氏いたことないだろう」
「はあ!?」