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幸福に生きたい不幸なあなたへ  作者: 木鳥
五章・友華 二部
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   新入部員③

「そういえば孝宏の奴、今日は遅いな」


 アリスの用意してくれた昼食を皆で完食した後、今更ながら孝宏がこの場にいないことに気づく。


「飛鳥ちゃん何か知らない?」

「あいつなら授業が終わった瞬間に飛び出していったわ。てっきりここに来てると思ってたけど……」


 どうやら飛鳥も知らないらしい。顎に手を当てて難色を示している。

 孝宏は部活をサボる時は連絡を入れるから、何も音沙汰なしに来ないのは珍しい。


「孝宏ってもう一人いる男の先輩かしら?」

「ああ。変な奴だから関わるのは控えた方がいい」

「友達なんですよね……?」


 そんな感じで孝宏の話をしていると、噂をすれば何とやらってやつで部室の戸が開かれた。入ってきたのは勿論、孝宏だ。何故か妙に疲れ切った様子で、ふらふらしながら入って来た。


「ぜえ、はあ、ごめん遅れた……」

「斉場どうしたの!? 顔真っ赤だよ!」


 心配したアリスが駆け寄る。

 孝宏はソファにどさりと座り込んで首をぐいっと曲げて疲労を露にしていた。


「授業終わってから今までずっと逃げてたんだよ! こ、ここならバレないと思って駆け込んだんだ……」

「逃げてた? いったい誰からだ?」


 必死の物言いに呆れている俺が言い終わるのとほぼ同時に、部室の戸がまたもや開いた。

 自ずと全員の視線が集中する。女性陣はその先にいる人物を見て首を傾げていたけれど、俺だけは自分の心臓がどくりと脈打ったのを感じた。

 見覚えのある後輩がそこに満面の笑みを浮かべて立っていたのだ。


「やっと見つけましたよ孝宏先輩! 今度は逃がしません!」

「げげ! 何でここが!」

「先輩の逃げる先何て大体予想できますから。それに部室の場所は以前に調べていたので」

「こえええ!」


 孝宏が俺の背後に回って体を隠す。


「優作! 一生のお願いだ、助けてくれ!」

「優作先輩! お久しぶりですこんにちは! その、私の事覚えていますか?」


 髪の長さは燈子と同じで肩上くらいだが、高校生にもなって苺のピンで髪を留めているのは少し目立つ。しかし、それが痛くないくらい元の容姿が整っているからむしろアイデンティティになるであろう。

 以前に孝宏の過去の件で知り合った少女、枕崎七海が楽しそうにそこに存在していた。


「ああ、もちろんだ枕崎。この学校に入ったんだな」

「はい! 孝宏先輩のいるところに私ありですから!」

「だからってずっと追い続けることないだろう!」


 こんな美少女に好かれているくせに煮え切らない後ろのヘタレは、俺に隠れながら全力で抗議していた。

 部活に来るのが遅かったのは七海から逃亡していたからなのか。


「お前は何で逃げてるんだよ? 折角枕崎が来てくれたんだぞ?」

「ああ、先輩は恥ずかしがり屋なので。皆の前で私に話しかけられるのに慣れないんですよ」

「や、確かにそうっすけど……。何かそんな風に言われると、変な気分だな」


 ふう。見てるだけで腹が立つな。

 いっそここの窓から突き落としてやろうかリア充が。


「そこの子、優作の知り合いなの?」

「孝宏の恋人みたいな感じだ」

「斉場の!?」

「やめた方がいいよ!」

「あの、皆僕に対して情は無いの?」


 アリスと鈴音が驚いていた。今はまだ付き合っている訳ではないが、多分この二人は時間の問題だと思うのでそう言っておく。


「やん」


 枕崎は頬を赤らめてもじもじしていた。可愛い。

 昔の話を聞いていなければ、こんな子に好かれている後ろの男を殴っているところだった。


「で、僕の事を追いかけて何するつもりだったんだよ」

「何って、これ渡したかったんですよ」


 俺の背後から枕崎の動きを警戒しながら、孝宏が出てくる。

 枕崎の手には一枚の紙が握られており、孝宏がそれを受け取っていた。そしてぎょっと目を見開いてあんぐりと口を開ける。


「な! こ、これって!」

「先輩の部活に入部するんですよ! よろしくお願いしますね」

「おう、よろしくな」

「嘘だああああ!」


 一人絶句して力なく地面に倒れた孝宏を尻目に俺は枕崎の入部を歓迎していた。

 孝宏とは休日偶に会っていたようだが、同じ学校に来るとは思っていなかった。知っている人が増えるのは学年が違っても嬉しいものだ。友華は俺の事を舐め腐っているから別枠だけど。


「山元、意外に知り合い多いね。女の子の」

「……偶々です」

「本当にナンパとかしてない?」

「するわけないだろ。俺はこう見えて紳士なんだ」

「今朝私の胸を揉んだ男が良く言えたものね」

「あ、お前それは内緒にしろよ!」

「ふふ、怒ってないよ。友達の私には、怒る理由もないしね。明日のお弁当は自分で用意してね」


 アリスが厳しい。

 賑やかになった部室で俺は妙にアリスの視線が気になって仕方なかった。



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