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幸福に生きたい不幸なあなたへ  作者: 木鳥
五章・友華 二部
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六十話・新入部員


 午前中、というか朝のホームルーム前に一日分の疲労が溜まったと感じたが何とか昼まで過ごし切り、進級初日の放課後を迎える。


 軽いオリエンテーションを終えたら今日は解散なのだ。今年も担任だった串木野先生が三年生としての自覚を持って行動してくださいと、口酸っぱく言っていた。

 この学校は二年のクラス替えが最後なので三年の学級は引き継ぎになるのだが、何となく全員表情が引き締まっているように見えた。

 それぞれが自分の進路に向けて動いているのかもしれない。そんな風に勘ぐってしまうのは俺自身の焦りだ。


「山元。部活行こう」


 串木野先生が教室から出るなり、クラスメイトの銀髪美少女アリスが話しかけてきた。


「もちろんその気だけど……、何か気が乗らないんだよな」

「ご飯迷惑だった?」


 アリスはいつも俺に弁当を作ってくれているのだが、今日は大きな重箱仕様だ。鈴音や飛鳥の分もあるんだろう。


「そんな訳ない。むしろアリスの弁当が食べられなかったら部活に行かないな」

「そ、そう。じゃあどうして?」

「クソ生意気な新入生が入ったんだよ。そいつが来てたらと思うと気が重いんだ」

「新入生……! 後輩できるんだ!」

「期待したらショックも大きいからやめた方がいいぞ」

「どんな子でもいいよ。後輩が本当に出来るって方が嬉しい」


 にんまりと微笑むアリス。

 この状態のアリスを止めることは出来ないので俺はおとなしく部室に向かった。



―――――――――――――――――



 部室に入ると案の定、友華がソファに寝っ転がっていた。

 どんだけ適応力があるんだこいつは。


「よ。速いなお前」

「一日中ここにいたもの。そりゃ優作先輩よりは速いわよ」


 自称天才の友華だが、流石に初日くらいは顔出した方がいいのではないだろうか?

 友達関係とかは入学初日に結構別れたりするもんな。


「そこの人は?」


 ソファから起き上がった友華が俺の後ろにいたアリスに気づく。


「あ、えっと、上赤アリスです! よろしくお願いします!」

「アリス。お前の方が先輩だからタメ語で良いんだぞ」

「とんでもない美人じゃない。え、ここってオカルトについての部活なのよね。朝の人といい顔のレベル高すぎない?」


 友華はアリスの整った容姿に驚いているようだ。芸能人になったら確実に千年に一人の美女の称号を得るだろうし、その反応にも無理はない。


「まあな。どんなもんだ」

「お前が自慢げにする意味が分からないわ。はあ、それにしてもこんだけ容姿が整った人が多いなんて……。少し残念。てっきり女子は私とあの先輩だけって考えてたから、優作先輩と話す機会も増えると思ってたのに……」

「え、お前それって」


 まさかこいつ俺の事好きだったのか。あれか。好きな人に冷たく当たりたいとかか?


「女子二人でその他は男子だけの部活。しかもお前程度の顔の奴らなら私の顔で言い寄って、パシリに出来ると計画してたわ」

「よし、一回表出ろ」

「山元! 落ち着いて!」


 この一年。一回本気でしごいてやろうか。

 友華は俺の反応何て眼中にないのか、無視してアリスの方を見ていた。


「アリス先輩、でいいかしら。私はこの通り年上に対しても言葉遣いが正せない人間よ。それでも、この部活にいていいかしら」

「全然いいよ。むしろその方が気楽でいいや。よろしくね、友華」

「ええ、よろしく」

「俺の時と偉い態度が違うな」

「ごめんなさい。人間には流石の私も気を遣ってしまうのよ、ポチ」

「ガルルルル! 表に出ろやああ!」

「山元! ステイ、ステイ!」


 俺が今にも友華に襲い掛かろうとしていたその時、部室の戸がガラガラと開く。


「あれ、優作とアリスちゃん速かったね」


 部長の鈴音が到着していた。

 鈴音は友華が入部することを知っているので、アリスほどの驚きは無かったがどこか嬉しそうに口角が上がっていた。


「うん。鈴音は珍しく遅かったね。殆ど一番乗りなのに」


 アリスの言葉に鈴音は急に腕を組み始めた。

 そして不敵に微笑む。


「ふっふっふ。それはゲストを連れてきてたからだよ!」

「ゲスト? 誰か呼んでたのか?」

「気になる? 気になる!? ならお答えしましょう! 新部員の黒山燈子ちゃんだよ!」


 登場効果音が鳴りそうな前振りで鈴音が入り口を指さすとそこから見覚えのある顔が入って来た。

 髪を肩くらいまで延ばした幸薄そうな少女。一年生の黒山燈子だ。


「あ、えっと。お久しぶりです」


 気まずそうに顔だけ覗かせる。 

 まあ無理もない。


「お、久しぶりだな。性悪後輩」

「うぐ!」

「山元! それ掘り返したら可哀そうだよ!」


 燈子は以前、オカ研部員にして生徒会長の飛鳥を過去の私怨で陥れようとした事がある。

 その事を本人が引きずっているから遠慮がちになっているんだろう。


「うう、その節は本当にすみませんでしたあ!」


 燈子は開口一番、俺たちに向かって大声で謝罪したのだった。

 あの件以来会ってなかったけど、本当は真面目で礼儀正しい奴なんだろうな。横にいるクソ生意気な後輩と比べたら。


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