デジャブ②
早朝の部室。
四月のこの時間帯は流石に肌寒かったので暖房をつける。その時、ふと窓の外に目をやると少しずつ学生が登校し始めているのがわかった。
そんな事を気にしている余裕は無いので、俺は振り返りソファに座っている新入生に話しかける。
「いやーすまない。俺の地位を守るためだったんだ。あのままだと痴漢冤罪をかけられそうだったから、少し手荒になった」
「知ってるかしら? 冤罪ってやってない罪の事よ。お前はやってたじゃないの、私の胸を揉んだでしょう」
以前に少しだけ面識のあった新入生の如月友華。そいつは俺のことを冗談抜きで殺しそうな目で睨んでいた。
さっき事故で胸に触れてしまい、その場にいた鈴音に言いふらされないように勢いで部室まで連れてきた訳だが。凄い気まずい。
「それに関しては本当に悪いと思ってる、木の上に猫がいると思って登ったら落ちたんだよ」
「本当かしら。生憎そんなに簡単に人を信じる性格じゃないのよ。こんなに可愛い私の胸を揉むために木から飛び降りた、その方が納得できるまであるわ」
「安心してくれ。毛ほども興味が無い」
自分に自信がおありのようで、堂々とそんな事を言ってのける。
というか俺が連れてきて何だが、こいつの馴染みようは凄いな。この部室は何故か設備面だけは充実しているから、入ってソファの並んだ部屋が学校にあれば驚きの一つもありそうなのに無造作に座りやがったからな。
「まあ、その件はもういいわ。お前はそんな度胸ありそうには見えないもの。――それにしても、ここがオカルト研究会の部室なのね。てっきり怖そうな模型や、本だらけかと思ったら結構オシャレじゃない」
友華が話を変えてくれた。正直助かる。いつまでもこの話を続けているのは中々に地獄だったからな。
「だろ? 鈴音――えっと、さっき隣にいた三年がこの部屋を見つけたらしくてな。そのまま部室にしたらしい」
「あの先輩も見たことがあるわよ。そんな行動力があるとは思えないのだけれど、人は見かけによらないものね」
「……」
「何よ?」
「いや、普通にタメ語なんだなって」
「前も言ったじゃない。敬う気もない人に敬語を使うつもりはないわよ。相手が変態なら尚のこと。水貰うわ」
吐き捨てるようにそう言って、友華は冷蔵庫を漁り始めた。
この後輩。よくまあほぼ初対面の相手に対してここまでキツイ当たりが出来るな。
「はぁ、まあ、満足したら出て行けよ。鈴音の手前怖気づいただけで、お前みたいな礼儀知らずとは関わりたくもないんだ」
少し厳しいとは思うが生意気な後輩に構っているほど俺も善人じゃない。
しっしとジェスチャーで早く出ていくように促した。しかし、友華は不思議そうに首を傾ける。
「何を言ってるのかしら。お前が誘ったのでしょう、私この部活に入るわよー」
「は?」
寝っ転がって本を読み始めた友華に詰め寄る。
「う、嘘だよな! 冗談はやめろよ、まったく」
「ちょうどサボり部屋が欲しかったの。高校レベルの勉強なんてとっくに終わってるから」
「なら屋上がお勧めだ。風が気持ちいいぞー」
「雨の日に使えないじゃない。エアコンやソファのある部屋が手に入ったからもういいわよ」
最悪だ。
このクソ生意気な女が本当に入部するっていうのか?
「お願いだ。他の部活に行ってくれ」
「私、人の嫌がる顔程見てて楽しいもの無いのよ。というわけでよろしくお願いするわ、優作先輩」
三年生初日の朝は、特に真新しいものでもないと思っていたが大きな誤解だったようだ。この日は悪魔みたいなクソ女が本当に入部した、最悪の日だった。
次回の更新は明日になります
よろしければ評価・ブックマークお願いします




