表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幸福に生きたい不幸なあなたへ  作者: 木鳥
四章・孝宏
175/243

   だからお前は④




「なあ、どうして枕崎から距離を置いたんだ?」


 アリスや鈴音曰く、俺はデリカシーとやらが欠如しているそうだ。どれだけ取り繕っても庇いきれないなら、と最初から正直に本題を口にした。


 孝宏はこの質問をされるとわかっていたのだろう。目を閉じて一呼吸置くと、口を開いた。


「悪いけど、それは話せない」


 はっきりと、固い決意を込めてそう言った。


「いや、話してもらう。お前は色々と普段の行動から思わせ振りだからな。たまには秘密の一つや二つ教えろよ」

「随分強引だな……、嫌われるぞ」

「お前に嫌われてもな。そもそも何で俺と二人になった?」

「ああ、それは。七海がいたら僕は色々とぶれそうだったから、かな」


 孝宏は目を細めて、空を見上げていた。夜なので星が点在し、明かりの少ない公園からだとかなり綺麗に見える。

 その行動は大きな後悔を思い出しているようにも見える。


「あくまでも、枕崎に会う気はないんだな……」

「まあね。僕はこれ以上、七海と関わることはできない。それが七海のためだから」

「ああ……、もう! 歯切れが悪いな! お前の言ってることが何もわからないぞ!」

「そりゃそうだよ。優作には絶対にわからない」


 そう言って孝宏は真っ直ぐに俺を見据えた。


「もう一度言うよ。僕は七海に関わらない。今まで通り何も変わらない日常を送りたいんだ。七海と会ったばかりのお前が、これ以上口を突っ込まないでくれ。そんなお節介は迷惑でしかないぞ」


 最後の方は睨み付けるように、そう言い放つ。

 普段の孝宏はしないような、はっきりとした怒気が籠っていた。


 夜の公園の肌寒さも忘れるほど、俺は緊張していた。もちろん顔には出さないが、完全に臆していたのだ。

 でも、それでも、ここで食い下がるわけにはいかなかった。


「ああ、そうかよ……。本当に初めて会った時から、お前は嫌な奴だな」

「あの時はお前が喧嘩売ってきたんだろ? 僕は嫌だったのに」


 呆れたようにオーバーリアクションを取られる。


 ……こいつは何でこんなに無理をするんだ。俺じゃなくても、孝宏と少し関わった人間なら誰でもわかる。こんなに辛そうな顔をしながら話す奴じゃない。


 いつも冗談言って、俺と馬鹿なことしてる孝宏は、こんな弱そうな奴じゃないんだ。


 そこまで様子を見ていて、自分の中で決意が固まった。

 俺しかいない。

 孝宏を、いま枕崎の前に突き出せるのは俺だけなんだ。今じゃないと、本当に孝宏は心を閉ざしてしまう。そんなどっちも不幸になる結末を、見て見ぬふり出来るほど俺は大人じゃない。


 葛藤もある。不安もある。恐怖もある。

 でも、馬鹿な友人を一発殴りたい気持ちはそれよりもずっと強かった。


 だから。


「……よし! じゃあやるか! あの時の続き!」


 だからそう言うのは、俺からしたら必然の流れ。


「へ?」


 珍しく孝宏が呆けた声を出す。 

 全く持って予想外の提案だったのだろう。


「初めて会った時の、喧嘩の続きだ。あの時は、誰かに邪魔されて途中で終わってたからな。今からその続きをするぞ」

「はあ!? お前、何言ってるんだよ!? 僕は何も、そんなことをしたい訳じゃ」

「お前の考えなんてどうでもいい! 煮えきらない態度を俺が気に食わなかっただけだからな!」

「や、で、でも! 何でそんなことしないといけないんだよ!?」

「俺が勝ったらお前は枕崎にちゃんと謝れ! んで負けたら、この件には金輪際関わらないし誰かに言ったりもしない! お前との付き合いを変えるつもりもないから、晴れて今まで通りの生活が送れるぞ」


 孝宏にとってのメリットと提案する。


 しかし、我ながら最低な事を言ってるな。昔のように何でも暴力で解決するのは辞めようと思っていたのに、結局こうなるのだ。


 半ば脅しのような謳い文句で、孝宏を焚き付けてまでして俺はお節介を焼き続けたかった。今の俺に、孝宏の為に取れる行動はこれ以上思い浮かばなかったのだ。


 頭が良ければもっと良い方法があっただろうけど、これが一番手っ取り早いと思った。


 孝宏は突然の提案に動揺しているが、困ったように口ごもった後に考えを声に出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ