だからお前は②
日が完全に落ちた時間。
夜の闇に紛れて、公園の真ん中に人影が一つ。
山川が退屈そうに地面を蹴りながら暇を潰していた。ツインテールの赤みがかった髪は、街灯に照らされることでより存在感を引き立てて、山川はさながらスポットライトを浴びた舞台女優のようだ。
「優作先輩、本当に大丈夫なんですか?」
隣にいた枕崎が俺に小声で聞いてくる。
「ああ、多分だがあいつなら必ず来るはずだ」
俺と枕崎は公園のトイレの裏に隠れて、山川の様子を見守っていた。
流石に夜は冷えるので女子陣は制服の上にコートを羽織っていた。マスターから借りたものだ。借りたというか、強引に押し付けられた感じだったけれどマスターは娘と同年代の女子が夜に出歩くのが心配だったのだろう。
もちろん俺には何もなかった。寒い。
俺たちは孝宏を呼び出すためにある作戦を計画した。
それは枕崎からしたら信じられないものだろうけれど、俺は孝宏がここに来ることを確信していた。山川も俺側である。
「って、言ってる傍から誰か来たぞ」
「本当です! 静かにしましょう!」
自転車のライトが見えたので俺と枕崎は気配を殺した。
山川はスマホで時間を確認し、やっと来たかといった面持ちで自転車が公園の入り口に止められるのを見ていた。
「はあ、やっと来ましたか」
息を殺して聞き耳を立てているので、五メートル程先にいる山川の声も鮮明に聞き取れた。
山川の半ば呆れたような声に反応して、顔は見えないが笑っているような雰囲気は感じられる人物は近づいてきた。
街灯の下に入って初めてその顔を視認できる。
想像通り孝宏がそこに来ていた。
「やー、ごめんごめん! 少し遅れちゃった!」
「十分は少しではありませんわよ……」
孝宏はいつも通りの軽薄な素振りでやってくる。
枕崎から昔の話を聞いた今では、顔が同じだけの別人のようにも思えるほどの変わりようだった。ちなみに十分くらいの遅刻なら俺も平気でする。
「先輩。あんなに笑ってるんですか……」
孝宏と山川の関係を羨ましそうに眺めている。孝宏は中学時代は心を許せる友人が少なかったそうだが、今の孝宏はそんな素振りは無い。オカ研の皆にはもちろんだが、その他にも数人気兼ねなく話しているような友人はいると思う。
中学と高校の孝宏でその点は大きな違いだ。
だから、枕崎はこんなに驚いているのだろう。
「まったく、あなたという人は本当に弛んでいますわね」
「今更そんなこと気にする? 僕は普段からこんな感じだけど」
「そうでしたわね。失礼」
ごほん、と仕切り直すように山川が咳き込んだ。
孝宏は自分の過去が知られているとは夢にも思っていないので、首を傾げて眺めている。
「あ、えっと、それで用事って何なのさ?」
わざとらしく頬をかきながら孝宏がそう聞いた。
気まずそうに視線を流した山川と目があう。