見つかった過去②
中学の後輩ということは、こいつが空手をやってた頃を知ってるわけだし。
「それで、先輩。今は何をしてるんですか? やっぱり空手部ですよね!」
「オカルト研究会に入ったよ」
「何故に!?」
枕崎がこけそうなくらいガクリと前屈みになった。
良いリアクションだ。ツッコミ役が少ないうちの学校にほしい逸材かもしれない。
「入ったというか、入れさせられた感じかな。詳しいことは忘れたけど」
「そ、それなら辞めればいいじゃないですか! 先輩の才能があれば腕のハンデなんて関係ないですよ!」
過去の孝宏がどれだけ凄い奴なのかは知らないが、枕崎は是が非でも空手を続けてほしかったようで酷くショックを受けていた。
「あー、七海。そういう話以前に空手は、多分もうやらないよ。飽きたし」
「そ、そんな……嘘ですよね」
何というか、余りにも不便だ。
孝宏を探していたのに本人は府抜けて、空手に復帰する気はないなんて。
それに、孝宏の言い方も厳しい。いつもは変なところで人に配慮出きる奴なのに、ここまでわかりやすく突き放すのは妙だな。
「じゃ、これ以上話すこともないし。もう来るなよー」
遂にはそう言って歩き始めてしまった。
当事者同士の問題だと思ったので、なるべく口を出さなかったがもう限界だ。これは余りにも酷すぎる。
「おい、孝宏」
「何だよ……、肩つかまれると痛いんですけど」
「今の返しは無いんじゃないか? お前らしくないぞ」
「お前が関わるなよ。これは僕の問題なんだから。知らない奴が勝手に口挟むのはやめろ」
「口を挟みたくなるくらいお前がおかしかったからな。普通にしとけばこんな事してない」
「……」
孝宏が一瞬俺を睨んだ気がしたが、直ぐに顔を進行方向に向けたのでわからなくなった。
「ま、いいや。とにかく僕はこれ以上なにも話すことはないし、構うつもりもないんだ。じゃあな」
「お、おい待てって!」
そのまま孝宏は俺の手を振りほどいて足早に去っていった。
走れば追い付けるが、枕崎とかいう少女の様子も気になるのでそっちから対応しよう。
「な、なあ、大丈夫か?」
「はい……。まさか先輩があそこまで変わっていたなんて、思いませんでしたけど」
本当に残念そうに、枕崎はがっくりと項垂れた。
中学の孝宏を知っている人間が見たら、今のあいつはそんなに酷く写るのか……。
「初対面でこんな事言うのもあれなんだが、何か出きることがあれば手伝うぞ?」
「ふえ? 何でですか?」
気づけば自分の口からそんな言葉が出ていたことに内心驚く。
最近は色々と巻き込まれることが多かったので、いつの間にか問題ごとに自然と首をつっこんでしまう体質になってきたのかも。
「俺は一応あいつと友人みたいなものなんだ。今の振る舞いは普段と比べてもおかしかったし、このままだと聞く耳持たないだろう。それにお節介には慣れてるんだ。あいつの昔話も気になるし」
あまり気を遣わせてもいけないのでそれっぽいことを適当に並べる。
枕崎は納得こそしていないだろうけど、一応俺の協力提案に頷いてくれた。
「そうですか……。先輩は良い友達がいたんですね」
あいつとの関係をそんなに良いものだと言われると微妙なので黙ってしまった。
「にしても孝宏の奴。俺には残れとか言ってたのに自分は帰るなんてな」
「あはは、せ、先輩は自由な人なので」
「まあ、確かに。中学の知り合いっぽいけど、学年が一緒じゃないなら部活が一緒だったのか?」
「あ、え、えっと、そんなところですかね。正確には違いますけど」
「そうか……」
「……」
「……」
やばい。初対面の中学生との会話なんて弾むわけがなかった。
さっきまでは孝宏がいたから普通に接していたけど、俺はともかく枕崎は孝宏目当てで来たのに知らない男と二人になってしまって気まずくて仕方ないはず。
ど、どうしよう。このままじゃ、孝宏が枕崎に乱暴な対応をした理由を聞く前に間が持たない。
だ、誰かいないか!?
校門前で話を続けるのも色々誤解を招きそうな状況なので、ここからさっさと立ち去りたい。しかし、俺だけでは不安なので咄嗟に周囲を見渡してしまう。
あれだけ格好つけて手伝うといったのに、のっけから情けないな……。
「あら、優作さん何してるんですの?」
俺の数少ない知り合いが偶然校門前を通ってくれた。
最近はいよいよお嬢様言葉はキャラ付けじゃないのかと疑われている山川節子が、向こうから話しかけてきたのだ。
「や、山川! もうお前でいいや、手伝ってくれ!」
「え、失礼じゃなくて?」
「せ、先輩。そんな言い方は……。それにこれ以上巻き込むのは悪いです」
「お願いだ。頭のいいお前しか頼れない」
「任せなさいですわー! 私の頭脳で困りごとは解決して差し上げてよ!」
「だそうだ」
「……い、良い人なんですね」
必死に単純な山川を褒めるあたり、枕崎は性格が凄くいい奴だとわかる。
「おし、ここで話すのもなんだし。ゆっくり出来る場所に行くか」
「あ、あそこですわね。よいですわー」
「え、変なところじゃないですよね? 流石に断りますよ?」
「大丈夫だ。行きつけの喫茶店だから」
「へ、へえ。やっぱり高校生って凄いんですね」
偶然出会った山川と、何か訳ありな様子の枕崎。
放課後に揃った謎のメンバーを連れて、俺は込み入った話が出来る場所に向かった。




