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幸福に生きたい不幸なあなたへ  作者: 木鳥
四章・孝宏
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五十一話・見つかった過去


「とほほ、今日は疲れたよ」

「半分以上お前が悪かっただろうが」


 放課後。孝宏と二人で帰路に着く。


 普段はアリスや鈴音もいるけれど、今日は女子だけでスイーツを食べに行くらしく俺たちは置いてかれた。

 孝宏が無理矢理でも着いていこうとしたが、飛鳥に鉄拳制裁をくらい撃退されてしまった。


 今は校舎を出てサッカー部が片付けをしているグラウンド横を通っているが、孝宏とは方向が真逆なので校門まで付き添う形になる。


「そういや優作は、進路なんて書いたんだ?」

「急にどうしたんだよ。その話はさっきで終わっただろ」


 アリスが暴走し始めたのでそのまま流れたと思っていたけれど、孝宏は意外と気になっていたらしい。


「お前のを聞けてないだろ? 呼び出しくらってなかったから、何か書いたんだろうけど予想もつかないよ」

「うーん、そんな大層なものでもないぞ?」

「いいから教えろよー、減るもんじゃないし」


 むう。何かこう言われると尚更教えたくなくなっきたな。

 別に聞かれても困るようなものじゃないけど。


「じゃああれだ。俺が言ったらお前も将来の夢教えてくれよ」

「だから、そんなのないって。さっきも飛鳥ちゃんたちに言ってただろ?」

「ん? あれは嘘だったろ? お前の嘘はわかりやすいからな」


 俺が見破ったのが意外だったようで、孝宏は目を丸くしていた。それを見て、先程の言葉が本当に嘘だったことを確信する。


「なんでわかるんだよ……。お前、僕のこと好きなの?」

「鳥肌止まらないからやめろ」


 あいにくそっちの気は無いので、否定しておく。友達としては関わりの深い奴だけど、あくまでも悪友としてだ。


「優作って結構周りを見てるよな。普段は乱雑キャラのくせに。意外と繊細なのはギャップ萌え狙い?」

「そんなキャラ演じた覚えないぞ」

「誉めてるんだよ」


 ……そうとは思えないけど。


「そうだ! 優作が自分の進路を教えてくれたら、僕も話すよ! これでウィンウィンだろ!」 

「そうきたか……。わかったよ、教えるからお前も言えよ」

「当たり前じゃん! 僕がお前を騙すとでも?」

「……」

「何か言えよ!?」


 まあ、孝宏の進路が気になるのは本当だ。こいつの事は知っているようで知らないから。


 家に行ったこともあるけど、俺は本質的に斉場孝宏という人間がどんな奴なのかを未だに把握出来ていない。


どこまで近づいても少し距離を置かれているような感覚。どうにか表すと、そんな類いの違和感だと思う。


「じゃあ、優作から言えよ。僕はその後に言うから!」

「この際順番は関係ないしな。俺からでも良いよ。俺の進路目標は、」

「ああ! 本当にいました!」


 校門付近で俺が話そうとしたとき、それを掻き消すくらいの女性の大声が響いてとっさに口ごもってしまう。


 大声、といっても怒りは入っていない。何かに歓喜しているような、興奮気味の声色だ。


「うるさいなあ、急に誰だよ――て!?」


 校門で大声をあげた女性。自然とその方向に顔が向く。


 何故か俺より先に反応していた孝宏が体を硬直させていたけれど、それを気にするよりも前に視界に声の発生源を捉えるのが早かった。


「げ、何でお前が!」


 孝宏はあからさまに嫌がっている声を出す。

 それに対して少女はむすっとふて腐れた。


 肩の上くらいで整えた短髪を風になびかせ、頬を膨らませるその様ですら愛嬌のあるように感じる程整った容姿をしている。年齢よりも若干幼く見えるが、制服からして中学一年生なんだろう。


 問題は、こんな可愛い少女が孝宏と面識あるという最悪の事実だ。


「何ではこっちの台詞です! どれだけ時間かけて探したと思ってるんですか、先輩!」

「……どういう関係だ」

「ああ、優作に誤解される! 違うんだ、こいつは中学の頃の後輩なんだよ」

「あ、先輩のお友達ですか? 私は先輩の後輩で、中学三年の枕崎七海です。初めまして」

「お、おお初めまして」


 ぺこりと礼儀正しくお辞儀されたので、思わず会釈で返す。

 ただの後輩。そんな関係には見えないけれどな……。


「はあ、まさかここがバレるなんて……」

「ふふ、先輩の実家に通ってお母さんから聞き出しましたよ。全然帰らない先輩よりも家に行ってるので、むしろ私の方が馴染んでるまであります」

「外堀から埋めにきたのか!?」


 やばい。完全に二人の世界だ。ここで俺が下手に話に混じるのは良くないことくらいわかる。……よし。


「じゃ、じゃあ。達者で」

「待て優作! お前は誤解してるだけだ! ここにいてくれ!」

「いや、折角の時間を邪魔したら枕崎に悪いだろ」

「私は構いませんよ? 聞きたいことは山程ありますけど、聞かれて困ることでもないので」

「うーん、よくわからんけど、そういうことなら」


 とりあえずこの場に居座ることにした。


 他校の制服だし、状況を考えるとこの枕崎という少女は孝宏が出てくるのを校門前で待っていたということになる。


 話を聞く限りここに入学したと伝えてもいなかったようだから、相当な苦労をして探していたんだろう。

 それ程までに孝宏に強い思い入れを持っている枕崎のことは正直気になる。

 中学の後輩ということは、こいつが空手をやってた頃を知ってるわけだし。


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