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幸福に生きたい不幸なあなたへ  作者: 木鳥
間章
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   放課後デート②

「そういえば今どこに向かってるんだ?」

「わひゃあ!」

「わひゃ?」

「えっと来れば分かる! 行ってのお楽しみ!」

「そうか。何かそう言われると気になるな……」


 突然話しかけたせいでアリスがビックリしていたけど、変に含みのある言い方は好奇心を駆り立てる。


 そもそもアリスは何で俺をここに連れてきたんだ?


「着いたよ。ここ」

「ここって……。雑貨屋か?」

「うん。クラスの友達から流行りのアロマがあるって聞いて、少し興味が湧いちゃったの」


 ……まずい。アリスは何で俺を連れてきた。


 アロマなんて何もわからない。アリスよ、俺のどこにアロマ男子の片鱗を垣間見たんだ。


 せいぜい小学校の図工でやったアロマキャンドルくらいならあるけど。でも確か火をつけるのが勿体なくて保存してたら、湿気で使えなくなって捨てたんだったな。

 うん。本格的にわからないぞ。


「あ、あのー俺アロマなんて使ったことないんだけど……」

「大丈夫! そうだと思って連れてきたから!」


 何故だ!?


「ほら入るよ」

「へ、へーい」


 中に入るとやっぱりというか、この手のコーナーは女性をメインにしているようでどことなくピンクが多い。


 店によってはもっと落ち着いた雰囲気の場所もあるだろうけど、特にここは女子高生が好きそうな感じの場所で軽い化粧品や何かの人形なども置かれていた。男性アイドルの特設コーナーもあるな。


 見れば見るほどここにいるのが恥ずかしくなってきた。


「あった。これだ」


 どうやらアリスは早くもお目当ての物を発見したらしく手に取っていた。


「それが友達に勧められたやつか。なになにローマンカモミール……」

「そう。名前が面白くて気になってた」


 名前が面白いか。


 まあ、確かに言われてみればそうだ。他のはローズとかラベンダーとかグレープフルーツとか書いてるのに。何かこれだけは。


「「コーヒーみたいな名前だな(でしょ)」」


 アリスと言葉が重なってしまって互いに目を丸くする。


「ぷ、あはは」

「はは、一緒の事考えてたな」


 それがおかしくて笑ってしまった。


 え、ヤバイ何これ。

 俺史上最も青春してる気がする。


 そのままアリスは目的の物を購入して店を出る。


「山元は行きたいところある?」

「そうだな。あ、本屋とかか? 最近行ってなかったし」

「へー。山元本読むんだ、意外」

「人並みにはな。家にゲームとか無いから、本は結構暇潰しになるんだよ」


 そう言って雑貨屋のすぐ近くにあった本屋に入る。


 いつもは商店街にある寂れた本屋なので、二年ぶりに来たショッピングモール内の本屋はその賑わいように驚いた。


「本屋も結構ひと多いな」

「どこもこんな感じだよ。この辺のお店は」


 そう言ってアリスは迷いのない動作で先に進んでいく。

 ここのコーナー配置を知ってるんだろう。俺もおとなしくアリスについて行った。


 アリスのことだから真面目な本が並ぶコーナーか、漫画のどちらかだな。


 そんな予想をしながら歩くこと数秒。ある棚の前でアリスが止まった。


「はい、本だよ」

「アリス。学生の買う小説はラノベだけじゃないんだぞ?」


 俺が読む本と聞いて、すぐにここに来たのは予想外だ。そりゃあ、少しは読んだことあるけど本当に有名なやつくらいだ。


 最近はネットでたまーに見かけるけれど増えすぎて手が出しにくいんだよなあ。


「え! 山元って純文学読むの!?」

「そこで驚くなよ! 普通に読むわ!」

「そうなんだ……、ラノベも面白いよ?」

「や、そこを否定する気はないぞ。何か凄いんだろ、これからアニメになって映画とかしてるって聞いたし」


 それだけ人を惹き付ける世界観や独創性があるのだろうな。

 アリスは俺の話を聞いて子供のように目を輝かせた。


「そう! ま、まあその辺は一般教養なんだけど、どれも面白いんだよ! ファンタジーはゲームの世界みたいでわくわくするし、恋愛物は普通にドキドキして先が気になるの!」

「わ、わかったわかった。落ち着いてくれ」


 どうやらアリスは本当にこの手の話題が好きなようで、顔をグイッと近づけて宣伝してきた。そのことにすら気付いてなさそうだな。


「えーと、じゃあ今日はラノベを買うよ。ほいっと」


 ここまで言われたら他のコーナーには行けないので、近場にあった本を手に取った。アニメのようにキラキラした表紙が最初に目に入る。


 えーと、タイトルは……。


「……義理の妹が積極的すぎてヤバイ。何だこれ」

「ん? ラノベだよ」

「や、そうじゃなくてタイトルが」

「何か変なの?」

「え?」

「え?」


 おかしい。俺は今アリスと同じ本について話している筈だ。


 まるで外国人とのカルチャーショックに悩んでいる気持ちになるのは何故だ。


「じゃ、じゃあこれだ。会社をクビにされたおっさんの、異世界世直し冒険記~俺はスローライフを送りたいのに気付いたら獣人の娘がいました~。だとよ」

「わかりやすいね」

「声に出すのも恥ずかしいな」

「どこが?」

「ん?」

「ん?」


 話が、絶望的に、噛み合わない。


 どうやらアリスにとっては常識の範疇にあるタイトルのようだ。

 くそ。明らかにアリスがおかしいと思うのに。どうにかアリスでも違和感を覚えるタイトルは無いのか!?


 その時俺の視界にある一冊が目に入った。直感的にこれだと思いすぐに手に取る。


「よしじゃあこれはどうだ!? 外れ職業だと思っていましたが追放された後に覚醒してSランク冒険者になりました~今更戻って来いと言ってももう遅い~。お、おわあ、凄いな」

「ふふ、山元」

「ど、どうしたアリス?」

「現実ってさ、努力しても報われないことが殆どだし。どんな物語よりも救いのないものだよね」

「え、あ、まあ、わかりやすくイベントなんて起こらないよな」

「それをフィクションでくらい発散したいの。難しい内容とかじゃなくて、テンプレはそれで完成して面白いからテンプレなんだよ」

「は、はあ」

「まだ、続ける?」

「すみません」


 アリスの謎の圧力に押されて俺はそれ以上この領域に干渉するのをやめた。


 取り敢えず最初に手に取った『義理の妹が積極的すぎてヤバイ』を購入して本屋から立ち去った。

 店を出るまで妙に満面の笑みで微笑むアリスが怖かったです。

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