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幸福に生きたい不幸なあなたへ  作者: 木鳥
間章
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四十九話・放課後デート

「山元。放課後時間ある?」


 昼休み。

 教室で机をくっつけて、アリスと昼食をとっていると不意にそんな事を聞かれた。


「放課後か……、今日は部活も休みだし特にやることはないぞ」

「そう、よかった」


 何故かアリスはそこまで言って話を続けるわけではなく、弁当にあったミートボールをぱくりと口に入れて咀嚼した。

 そして、しばらくの間を置いてからまた口を開く。


「良ければ一緒にお出掛けしない? ショッピングモールとかに」

「珍しいな。わかった、じゃあ放課後は付き合うよ」

「ん、ありがと」


 家に早く帰りたくないので、部活のない日はいつも町をぶらぶらしているだけだ。

 暇を潰せる絶好の機会なので誘いに乗ることにした。

 放課後はアリスと買い物か。一気に楽しみになったな。


「……あの、それってデートじゃないですか?」

「は!」

「そうとも言う」


 鈴音の一言で俺はその事実に気付き、アリスはブ無表情だったがイサインで上機嫌に反応していた。


「ま、不味い。これは不味い!」

「どうしたの山元。……私とじゃ嫌だった?」

「あー、アリスちゃんそういうのじゃないと思うよ。あはは」


 鈴音が苦笑いしているということは、恐らくやつは近くにいる。

 いや、奴らか……?

 とにかく早く逃げなければ。


「よ、優作。少し話いいか?」


 しかし、既に俺の肩は刺客によって拘束されてしまった。

 物凄い力で掴まれ、痛みを感じる。


 背後にいるそれを恐ろしくて振り向くことはできない。ただ自分の中の生存本能とでも呼ぶべき、数少ない生物としての自然的な能力が振り向いてはならないと警告を発していた。


「よ、よお。その声は孝宏じゃないか。俺の親友の」

「おう! まったく話す時くらい目を合わせろよ。少し用事があるんだけど、今いいか?」

「誘いはありがたいんだが、期末テストの勉強をしようかと思ってたんだ。悪い」

「テストはまだ二ヶ月は先じゃんか。冗談やめろって、ほら皆待ってるぞ」

「皆って誰だ!? っておい、やめろ! 誰だお前ら!? 他のクラスのやつだな? 離せ! ……よーし上等だ、そっちがその気なら相手になってやるよ、表に出ろやあ!」


 俺は教室を去り、孝宏含む数人の男子生徒と共に体育館裏に向かった。

 いつもやられるばかりだと思うなよ。

 今回ばかりはお前らが不良と恐れた俺の強さを見せてやる。


「ふふ、山元って最近友達増えたんだね。楽しそう」

「私が言うのもあれだけど、アリスちゃんって結構ぶっ飛んでるよね」



ーーーーーーーーーーーーー



「よしそれじゃあ行くか! いやあ、楽しみだな!」

「や、山元。大丈夫?」

「大丈夫だ」

「世紀末みたいな顔になってるよ……、何で昼休み終わったら頬に十字の傷つけてたの?」


 アリスは俺の顔を見て心配そうに覗き込んでくる。

 昼休みにアリスと俺の放課後デートの約束を聞きつけ、嫉妬に憑りつかれた男子との壮絶な死闘の末に顔に生傷が残っているのを気にしているんだろう。


「男の勲章ってやつだ。気にしないでくれ」

「むう、喧嘩は駄目……」

「善処します」


 その原因はアリスにあるなんて口が裂けても言えなかった。


 今はアリスと一緒に目的地の大型ショッピングセンターに向かっている。

 出会って半年以上経つし、それなりに仲も良い方だと思っているけど実は二人でデートっぽい場所に行くなんて初めてだ。


 アリスの記憶が無かった時を除くと二人で出掛けるのは、鈴音の児童養護施設、大門寺の家(不法侵入)くらいじゃないだろうか。

 いや、肝試しもやってた。あとはアリスの実家の喫茶店や部屋には何度か行ってたな。

 順番おかしくね?


「うわあ、やっぱり人多いね」


 ショッピングセンターに到着すると最初に目に入ったのは至る所にある人の群衆だ。


 老若男女問わず多くの人間が縦横無尽に歩き回っている。俺やアリスと同じように学生服を着ているグループも多い。 


「……平日だけど結構な人だな。酔いそうだ」

「山元って人込みで酔うタイプなの?」

「まあ、好き好んで人の多いところにはいかないな。ここに来たのも二年ぶりくらいだ」


 人の多いところが嫌いなわけではないけど、少し苦手なのだ。幸せそうな家族連れを見ると、心がキュッと絞められるような不思議な感覚になるからだ。

 家族に恵まれていない自分への自己嫌悪かもしれない。


「そう。じゃあ、しっかり掴んでてね。はぐれたら不安になっちゃう」

「え、お、おい!」

「ふふ。今日は嫌でも私に付き合ってもらう」


 アリスが俺の腕を掴んで先導するように人込みの中に入っていく。

 確かにこれならはぐれる心配はないけれど、周りの視線が恥ずかしい。

 というか、逆じゃないかこういうの!?


 羞恥心から顔が真っ赤になっているのは、多分俺だけだ。アリスの顔を見ることは出来なかったけれど、きっといつもみたいにクールぶった感じなんだろう。


 

 その頃、アリスの脳内。

 わわわわわ! 

 勢いで山元と手をつないじゃった!

 今日の私は凄い、もう渋谷のギャルにも負けないくらいイケイケだと思う!

 一緒に来てよかったあ!

 ……というか、山元の手って結構ごつごつしてる。男の人は女子よりも筋肉質なのはわかるけど、こんなにたくましいんだ。うう、顔真っ赤だよ。どうか見られませんように。

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