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幸福に生きたい不幸なあなたへ  作者: 木鳥
三章・飛鳥
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   あんたはマジで優しいから②


 全体の流れとしては――。

 最初に黒山が当時の復讐として、元いじめっ子たちを脅迫して犯罪紛いの事をさせた。

 それを耳にした飛鳥が怪しみ、事実を知る。

 同じころに大門寺が脅迫されてしまう。友人思いの大門寺はそれに逆らえずに飛鳥に復讐をする演技を行う。

 その日の夜に飛鳥もある程度の事情を把握していることを大門寺に連絡。

 以来、二人は協力して黒山が切り札にしている虐めの映像とやらを発見するために躍起になっていた。


 これが今回の騒動の全貌だった。


 俺たちも騙されたのは飛鳥が黒山をそれだけ警戒していたからだ。


 もしも演技がばれてしまえば、即座に全てが終わってしまう。だから最低限の人数、大門寺と二人での解決を試みていた。


 要は俺たちを巻き込みたくなかったというのが本音だろう。


「あ、あはは……。完全に騙されていました。優作先輩が本気でお兄ちゃんが悪者だと信じていたから、滞りなく上手くいってると思ってたので」

「残念だったわね。あまり高校生を舐めない方がいいわよ」


 既に状況は完全に詰み。俺たちも含めて全員が飛鳥の策略によって騙されていたのだ。


 最後の方は俺たちの協力で幾分か動きやすくはなったらしいけれど。それも全て計画の内だったのではと疑ってしまう。


「はは、で、でも残念でしたね! 家にもこれのコピーはあるんです! そもそもそんな大切なデータを一か所に置いとく訳ないじゃないですか!」


 突然黒山が勝ち誇ったように笑みを浮かべる。


 飛鳥が直ぐにでも動けなかったのは、今言ったようにデータの隠し場所が分からなかったからだ。もし家のパソコンの中、スマホの中だったりしたら、即座にアップロードという有言を実行するのは容易い。


 唯一の懸念がその部分だった。昨日までは。


「残念だけれど、データが今手元にあるそれだけだっていうのはわかってるわ。そうじゃなきゃ、大門寺が私に危害を加えて事を荒げた瞬間にデータを放ってるでしょ。わざわざこんな所に取りに来る必要はないじゃない」

「ぐ……、もし、家にあって私が出てこなかったら?」

「よくわからないけど、優作がどうにかするって言ってたわ」

「ああ。えっと、まあ方法は企業秘密だけどな!」


 実は黒山の部屋には、メッセージを送る直前に幽体離脱したアリスに待機してもらっていた。

 もし不審な行動をしたら直ぐに伝えてもらうためだ。

 まあ、その辺は杞憂に終わったから良かった。


「そんな……! そんな訳の分からないことを信じたんですか!?」

「ええ。だってこいつは、そんな事で嘘は言わないし実際にどうにかしてたと思うわよ?」

「信頼してるんですね……! お姉ちゃんは見捨てたのに……!」


 黒山は本当に人を殺しかねないような鋭い目を向けてきた。最初に出会った時のどこか抜けたおっとりとした印象はもうない。


 肉親を失った深い悲しみが、直接込められている。思わず後ずさりそうになった。


「燈子、聞いてくれ! お前のやってることは唯の復讐だ! 咲はそんなこと望まないぞ!」

「親戚が姉妹の話に入らないで! お姉ちゃんの事は私が一番わかってるの!」


 地団太を踏む子供のように黒山が声を荒げる。


「はあ、あんたは何もわかってないわよ」

「何が!?」

「あんたは体のいい理由をつけて、自分の復讐欲を満たしているだけ。咲の死を利用して、誰かを苦しめてるだけじゃない」


「うるさいです! 大体何でそんなに偉そうなんですか!? お姉ちゃんに虐められていた癖に! 知ってますよ? 昔は友達がいなくてお姉ちゃんの尻尾みたいに引っ付いて動いてたんですよね! お姉ちゃんは構ってあげてたらしいですけど、そもそもあなたが何も言わずに虐められていたから、他の馬鹿女が汚い正義感を出してお姉ちゃんを虐めたんです! そうだ、全部あなたが悪いんだ! お姉ちゃんを殺したのはあんただ!」


「黒山!」


 流石に言いすぎだと思い口を挟むが、興奮していた黒山には俺の声なんて届かなかった。


「今だってそう! どうしていじめっ子に復讐してる私が責められるんですか!? 自分の行動に責任を持つのは当然です! 虐めで人を精神的に追い詰めた連中が、何知らぬ顔でそんなこと忘れたように生活してるのに、家族である私が復讐したら駄目なのは何でですか!? 家族を殺した殺人犯達が報いを受けずに生きてるのは何でですか!? あっちもお姉ちゃんのように苦しんで、人生を無茶苦茶にすればいいんです!」


 虐めで自殺した姉。

 加害者側は間接的な殺人犯。そんな奴らがのうのうと生きているのが許せない。


 その黒山の主張は自分の胸が張り裂けそうな程によくわかってしまった。

 何も虐められた過去があるとかじゃない。ただ、その考えを否定するような何かを持ち合わせていなかったから。理解するしかなかった。


 黒山は自殺した姉の未練を引きづって、ずっとこんな感情を抱いて生きてたのか?


 俺なら、到底耐えられない……。


「燈子……! ぐう……!」


 大門寺も何かを言いたそうな顔をしていたが、黒山の主張を否定できず血が出るのではないかと思えるほどに強く唇を噛んでいた。


 友達思いの男はあまりにも無力な自分への怒りで、今にもパンクしそうになっている。

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