真相②
串木野先生に説教をくらってしまった日の放課後。
話が脱線して宿題を提出しないことなどの普段の素行不良まで注意されてしまい、億劫な気持ちになったままオカ研の部室に向かっている。
「お、優作もこの時間だったのか?」
背後から近づいてきていた孝宏に声をかけられる。
俺が遅くなったのは串木野先生の説教だけど、こいつはどうしてこんなに遅い時間に部活に向かっているのだろう?
「ああ。串木野先生に呼び出されてな。授業中のことで怒られてた」
「ええ、あの先生が説教するって……。問題が意味わからなくてパンツでも被ったの?」
「そんな思考回路をしてたら俺はとっくに補導されてるな」
そういえば孝宏と二人で話すのは久しぶりだ。
三人で会話する時に一緒のことは多いが、二人だけは二年になってかは結構減った。アリスや鈴音と教室が一緒なのも影響してるんだろう。
「そういや、最近どうなのさ」
「主語がないぞ。何の話だ?」
「察しが悪いなあ。あれだよ、これこれ」
そう言って小指を立てる。
彼女はいないのか、とか聞きたいらしい。
「生憎だけど浮いた話はない。そんな相手もいないしな」
「はは」
「いた! 急に殴るな!」
孝宏が笑顔で肩を叩いてくる。
いや、笑顔じゃない。目の奥が笑っていなかった。
「お前なあ、チャンスなんてそうないんだからワンチャンあると思ったら全力で仕掛けるんだよ。後悔するぞー」
「もっともらしいこと言うな。お前はただの女好きなだけだろ。命中率はゼロパーセントの」
「違うわ! こっちから願い下げしてるだけだわ!」
廊下に俺と孝宏の声が響く。
放課後の校舎は嫌に音が反響するのがよくない。昼間のような音量で話すと直ぐに教師から説教をくらってしまう。
「ちなみにだが、今日の部活。鈴音も飛鳥も行ってるんだよな?」
部室が見えてきたので今更ながら重要な事を確認しておく。
今日で自分の中のもやもやを解消するためにも出来るだけ全員が参加していてほしい。
「僕が知る訳ないだろ。まあ、特に何も聞いてないからいるとは思うけどさ」
「そうか。わかった」
「……何かする気なの?」
「まあ、そんな感じだ」
「へーい」
俺の雰囲気からそれが真面目な内容だと悟り、気だるそうな返事をしてくる。それでも曖昧な答え方に対して、特に話を追及してこないのは興味がないからではなく気遣いの一つなのだと思う。
ありがたくそこで話を中断させてもらい、部室のドアを開ける。
「悪い。遅れた」
「どもでーす」
二人して部室に入ると、アリスと鈴音そして飛鳥が三人で机を囲んでいた。
「あ、山元やっと解放されたんだ」
「二人とも遅いよー! 飛鳥ちゃんの手伝いも終わっちゃったよ
「いや、全員で手伝われても特にやることはないのよ? そこまで緊迫してるわけじゃないから」
どうやら今の今まで飛鳥の手伝いをしていたらしい。高確率で選挙関係のことだろう。
飛鳥が自分から頼むはずがないので、鈴音やアリスが強引に手伝いを迫ったといった感じか。
それにしても特に何もやることが無いのは幸いだ。
俺の話を集中して聞いてもらえる。
「鈴音。今日の部活だけど、もう何も予定はないんだよな?」
「いつも特に予定はないから、今日も部活っぽい事はないよ……」
言ってて悲しくなったのか、自嘲気味に笑みを浮かべる。
「そうか。それなら皆に一つ、聞いてほしい話がある」
「聞いてほしい話?」
最初に反応を示したのは飛鳥だった。
なので、俺は飛鳥と視線を合わせる。
「ああ。かなり大切な話だ」
「何なの? 妙に真面目な顔しちゃって……」
「優作。昨日の別れ際から少し変だよ? 何か悪いことでもあったの?」
「それを今から確認したいんだ。正直どういうことなのか俺でもよくわかってない話だからな」
そこまで前置きをしたとき、部室のドアががらりと開けられた。
オカ研の部員は全員揃っている。
いま入ってきたのは完全な部外者だ。
よほど考えになかったのか、俺とアリス以外の全員がその人物を見て目を丸くしている。
「ええ! 大門寺なんでここに!?」
入り口に一番近かった孝宏が声を上げる。
「ほんとだよ! もしかして飛鳥ちゃんにまた嫌がらせなの!?」
鈴音に睨まれてしまうが大門寺は動じない。
二人の反応に呆れたように髪をかいていた。
「好き好んで来るわけがあるまい。俺は上赤に呼ばれたから来たんだ」
そう言ってアリスが大門寺に送ったメールを見せてくる。
今すぐに、オカ研に来い。
さもなくば貴様の大切な何かが大変なことになるだろう。
あ、チェーンメールじゃないよ。個別のメールだから、大門寺に向けて送ってるんだからね。本当に大変なことになるよ……。
あ、でも、嫌がるような事じゃないからね?
えーと。お願いします。来てください。
「何と言うか、ひどい内容だな」
「や、山元が突然送れって言うから! さっき慌てて文章考えたんだもん!」
「最後の方に脅し切れていないのがアリスらしいわね」
全員がうんうんと飛鳥の言葉に頷く。
「それで、俺を呼び出したのは何故だ? 話を聞く限り優作の判断らしいが、何を企んでいる?」
厳しい目で俺を見てくる。
昨日までの俺なら柔道部の巨漢、大門寺にここまで睨みつけられたら怖気づいたかもしれないけれど今日に限ってそんなことはしない。
だって俺の考えが正しければ、大門寺のこの行動は……。
「優作。何か妙な事を考えているのならやめて。これは私と大門寺の問題よ、下手に首を突っ込まないで」
飛鳥からも突き放すような言葉が。
まあ、こいつに関しては何を言われたところで今更だ。本当に俺たちを突き放したいのなら、部活に来ないという選択もあったはずだし。
よし。
後は俺の考えを話すだけだ。
今回の騒動の、真相に繋がるある証拠を出して。
「俺がここに大門寺を呼んだのは聞きたいことがあったからだ。黒山咲の自殺。その復讐。そして、こんな茶番を見せられた理由をな」




