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幸福に生きたい不幸なあなたへ  作者: 木鳥
三章・飛鳥
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四十五話・真相

 アリスと大門寺の今後の動向を探るために行動した深夜の家宅捜索。

 それから数時間後。一夜明けて俺は激しい睡魔に襲われていた。


「こら、優作さん! 寝たら駄目ですよー!」


 数学の授業中。担任の串木野先生に頭を筒状に丸めたプリントで叩かれた。

 昨晩の睡眠時間が二時間ほどだったので頭が回らない。一限目から爆睡してしまう始末だ。


「すみません。昨日あまり寝れていなくて……」

「え、あ、そうなんですか……。何かあったら相談してくださいね!」


 いけない。スーパーお人好しな担任に心配をかけてしまった。この人は学生の寝不足を本人の怠慢だとは思わないのだろうか。


「ふわあ。山元、眠たくても授業中に寝たら駄目だよ……」

「上赤さんも寝不足ですか? 半分目が閉じちゃってますよー」


 俺を注意するアリスも、既に眠りにつく数秒前のような顔をしていた。

 昨日幽霊の状態で深夜まで付き合わせてしまったので、体は寝ていても脳みそは疲れているのだろう。

 幽体離脱というものがアリス本人にどれ程の負担があるのかもわからない。もしかしたらかなり無理をさせたのかもしれない。


「二人して寝不足なんだ……、へえ」

「鈴音なんだその目は。別に一緒にいたとかじゃないぞ」


 隣の席の鈴音から訝し気な視線を向けられる。

 おい、もしかして変な事をしたんじゃないよな、あ? 

 と言わんばかりの目だった。余計な事を口走っては直ぐにダメだしされるので最低限誤魔化しておく。

 実際本体とは一緒にいなかった。幽霊と一緒にいたんだ。

 だから嘘はついていない。多分。


「と言ってますけど、上赤さん昨日は夜に何をしていて寝不足なんですか?」

「山元と、一緒に、むにゃむにゃ」

「アリス! そこで眠るな!」


 とんでもないことを言い残して完全に眠りの世界へと入り込んでしまった。

 まずい。体から冷や汗が止まらない。数秒前まであった眠気も大気圏外までぶっ飛んで行ってしまった。


 部室ならまだしもここは教室。

 先生だけでなく大勢の生徒の目もある訳で……。 


「ねえ、やっぱりあの二人」

「前から思ってたけど怪しいよねー」

「やったのか?」

「殺されたいのか?」

「埋められたいのか?」

「手伝う」

「待て待て! アリスはいま寝ぼけているんだぞ! 夢の中の話をしているだけで、俺は関係ないんだ! ん? 最後の方鈴音混ざってなかったか?」


 後半話が物騒な方に進んでいったので慌てて弁明する。

 クラスメイトに誤解されてしまったら学校中に変な噂が広まってしまう。それはアリスにとって不栄誉極まりないものだし、学校のマドンナに手を出したなんて話が出まわったら確実に知らない誰かの恨みを買う。

 アリスも眠っていることだし、ここまで瞬時に反論したら嘘だとは思うまい。


「そういうのは関係ないだろ」

「ああ、上赤さんの夢に出た時点で憎たらしいよな」


 俺はここまで理不尽という言葉を体現しているやつらを見たことが無い。


「理不尽だ!」

「知っている」

「何か問題でもあるのか?」


 こいつら二年の初めのころまで俺の事を不良だと思っていた癖に……!


「まあまあ、皆さん今は授業中ですよー。遊ぶのは後にしてくださいね」


 串木野先生の鶴の一声で教室内はしんと静まり返る。

 助かった。この数に襲われたらただでは済まなかった……。

 普段なら大勢の人間にマザーテレサのように慕われているのは伊達じゃない。

 この人の事を俺は一生慕おう。命を救ってくれた恩人として。


「あ、優作さんは後で生徒指導室に来るように」


 俺の感慨は一瞬で崩れ去った。


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