アリスちゃんとの深夜徘徊in大門寺家③
「ああ、やっちゃった! もう完全に犯罪者だ、今さら遅いかもだけど」
指でフリックしてアプリを確認すると、これといっておかしなものはなかった。SNSやゲームが三つほど入っているだけ。
「うーん、おかしなものはないよね。スケジュール帳やメモ帳にも変な部分はないし。……もしかして取り越し苦労だったかも。いや、きっとそうだ。山元めえ」
いよいよ山元の多分後先考えていない行動を疑いたくなる。
大門寺が飛鳥に対しての嫌がらせを入念に準備しているのを前提で話を進めいてるけど、ぶっちゃけこれは推測の域を出ていない考え。
このままじゃ、ただの不法侵入になっちゃう。せめて飛鳥のあの字くらい見つけたいのに。
「あれ、着信が入ってる」
スマホをいじっていると着信が二時間前に入っているのに気付いた。二時間前といっても今は深夜二時なので日付が変わった後の話になる。
こんな時間に誰が電話をかけたの?
そんな単純な疑問に後押しされて着信履歴を開いた。
「……え?」
そこにあるのはここ数日の着信履歴。
そして、とある人物と執拗にやり取りしているのがわかった。
思わず頭が真っ白になってしまう。
「なんで……。こんなのおかしい……」
食い入るように画面を見て、情報を整理しようとしていた時だった。
「誰だ!? 何をしている!?」
「っ!?」
背後から怒鳴られてびくりと背筋が強張る。
今の声は大門寺のものだ。
当然私にかけられたもの。でもおかしい、幽体離脱している私は山元以外には見えないはず。
まさか、大門寺も見える側だった……?
最悪の考えに至ってしまう。
だとしたら私はもう逃げられない。この情報を山元に伝える前に捕まってしまう。
「そこを動くな! 少しでも動いたら手荒に押さえつけるぞ」
あり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ない。
根拠なんてないのに見えないと信じ込んでいた自分を呪いたくなる。
大門寺の足音はどんどん私に近づいてくる。振り向くことも出来ない。振り向いたらその瞬間に押さえ付けられそうだから。
直ぐ後ろでピタリと足音は止まった。大門寺の大柄な体で見下ろされている気配がする。
山元! 助けて……!
「誰もいない……。確かに気配を感じたし、うっすらと見えた気がしたんだがな。む、スマホが点いている。ライトと勘違いしたか……? 寝惚けているようだな……」
へなりと足から力が抜けそうになるけど、机に手を置いてなんとか耐える。
ど、どうやら姿が見られていた訳じゃなかったっぽい。
「……気配って」
「やはり、何かいる気がするな」
「……達人か何かなの?」
今も壊れたようにばくばくと脈打つ心臓を押さえて大門寺の部屋から出る。
大門寺は気配とかで私がいることに勘づき始めているし、収穫はあったから退散しても大丈夫なはずだ。
「ああ怖かった……。もう絶対にやらない」
そとにいる山元の所に怨みをたっぷり込めながら移動するのだった。
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「お、早かった――なあ!?」
大門寺の家の真向かいの壁に背中を預けてアリスを待っていたら、出てくるや否やチョップをくらった。
痛くはないけれど驚いて変な声が出た。
「……」
アリスは頬を膨らませて俺を睨んでいる。
俺の方から話を聞けという合図なのか?
「あ、えーと、どうしたんだ急に?」
「山元。私もう二度とこんなことしないから」
若干涙目にすらなっていた。
これは……。
考えられることは二つ。
一つは中で大門寺に発見されて、想像を絶する怖い目にあわされたか。
もう一つは大門寺のプライベートが見るに耐えないもので、何か恥ずかしいことをしていたから。
うーん。
「アリス。俺はお前がどれだけ汚れても、味方だからな」
「山元がやれっていったんだよね!?(不法侵入を)」
食い気味につっこまれる。
どうやらセクハラされたとかじゃないらしい。
「まあ、こんなこと頼むのは今回限りだ。またの機会なんて来ないだろ」
「確かにそうだけど……! なんか納得いかないなあ」
相当ご立腹のようだけど、その怒りの原因を探るのは出きればまた今度にしたい。
今はそれよりも優先するべきことがある。
少しだけ真面目な表情をする。
「まあその辺は後でゆっくり聞くとして……。大門寺の家で見つけたものはあったか?」
俺がその話を切り出すと、アリスは不満そうな顔はしながらも答えてくれた。
「うん。見つけたよ、えっとね」
そしてアリスからその話を聞く。
大門寺の新たな情報。
そんな生易しいものじゃない、一気に今回の騒動そのものの根底を揺るがすような話を。