アリスちゃんとの深夜徘徊in大門寺家②
「ここが大門寺の家……」
「妙な反応するな。別に普通の見た目だろ」
アリスはいたって普通の二階建て木造建築の家屋を見上げる。夜なので流石に屋根の色までは見えなかった。
「てっきり鬼ヶ島みたいな家かと思ってた」
「どんな家だそれ。大門寺も人間の子だから、普段は人の家に住むだろ」
「山元。遠回しに馬鹿にしてない?」
スマホのライトで表札を照らすと大門寺と書かれているので間違いない。珍しい名字なのでまさか他人の家なんて事はないだろう。
見た感じ明かりの着いている部屋はない。深夜なので全員寝静まっている筈だ。
この状況ならより安全にアリスも調査が出来るだろう。
「それじゃあ早速頼めるか? 俺は……、なるべく家の前にいるつもりだけど人に見られたら怪しまれるから、多少は移動してると思ってくれ」
「ん。わかった。私も早めに終わらせるよ。じゃ、行ってくる」
「一応気を付けろよー」
アリスはヒラヒラと手を振るとそのまま大門寺の家に入っていった。ドアを開けることなくすり抜けていってしまう。悪用すればとんでもない力だよな……。しないけど。
とりあえず案内が終わりすることもなくなったので、俺は近くの自販機に追加のお汁粉を買いに向かった。
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大門寺の家は中もいたって普通だった。
玄関から一番近いドアはリビング。一階にあったもう一つの部屋は、大門寺の両親が寝ていて少し気まずい気分になった。
「大門寺の部屋は二階かな?」
この姿でいたら足音や自分の声も他人に聞き取れないので、今回みたいな潜入の場合まず気付かれないはずだし特に周りを気にすることなく声を出す。
二階に続く階段を見つけて先に進んでみる。すると、二つの部屋があり一つは炎人と書かれた表札がかかっていたので、そこが大門寺の部屋だとわかった。
「そっか。下の名前は炎人だったっけ」
誰も呼ばないから一瞬わからなかったけれど、確か大門寺はそんな名前だった気がする。
ちなみにもう一つの部屋に顔だけ突っ込んで覗いてみたら、ただの物置部屋だった。あまり家庭の様子を監視するのはよろしくないので、直ぐに顔を引っ込める。
いやまあ、既にこんなことしている時点で十分犯罪なんだけど……。
でもこれは山元が、飛鳥のためにしたかったことだ。私に命をくれたも同然の人。まだ恩を返しきれていないから、山元に協力できるのは素直に嬉しい。
「うう、流石に少し緊張する……」
同級生の、それも男の人の部屋に入るなんて初めてだから少しドキドキする。折角なら初めては山元の部屋が良かった、……なんてね!
自分の考えに恥ずかしくなり、顔が赤くなってしまうのを感じる。
「で、でも。今はお化けな訳だから、部屋に入ってもノーカンだよね。うん。そのはず」
自己弁護を全力でしながら大門寺の部屋にドアをすり抜けて侵入した。
部屋の中は灰色の壁紙で、大きな窓が一つありそこから月明かりが差し込んでいた。ベッドと勉強机が置かれているのは当然として、床には室内で筋トレする人が敷くマットにダンベルやエキスパンダー、手足に巻ける重りなんかが置いてあった。
大門寺らしいといえば、イメージ通りの部屋。あの筋肉を維持するには日々のトレーニングが欠かせないんだろう。
視線をベッドに送ると大柄な男の人が規則正しい息をたてて仰向けに寝ている。大門寺はお手本のような姿勢で寝るっぽい。
「と、他のものに気を配ってる暇はないや。何か役立ちそうな情報あるかな……」
本棚には目ぼしいものはなく、漫画や筋トレの本、あと世界の拷問器具なんていう完全に趣味全開のニッチな本が入っていたくらいだ。
机を見ると上にはノートと教科書が広がっている。今日の宿題を終わらせて、そのまま眠りについたのかも。
「うーん……。やっぱりそれっぽいのはないのかも。そもそも飛鳥に関わる何かが大門寺の部屋にあるかもわからないのに。山元、結構勢いで動くからなあ……。このままじゃただの不法侵入だよ」
引き出しの中も確認したけど、文具や昔やってたっぽいカードゲームのデッキ、あとは適当なプリントが入っているだけだった。
それ以外に大門寺の情報なんてあるのだろうか。なんか不安になってきた。
そこでふと視線をベッドにいる大門寺に送ると、枕元にスマホが置かれている。充電ケーブルにささっていた。
「スマホなら何かあるかも……。えっと、履歴は見ないけど」
誰に言うわけでもないけれど取り敢えず言い訳しておく。
しばらく枕元で何もない空間を揉むように指を動かしたあと、ええい!ままよ!とスマホを手に取り机の上に持ってきた。
ポチリとボタンを押して起動するとどうやら指紋認証らしい。
「指紋認証……。ごめん大門寺! 借ります!」
大門寺の指を当ててロックを解除する。
「ああ、やっちゃった! もう完全に犯罪者だ、今さら遅いかもだけど」




