四十三話・天才少女はそこにいた
「問題は黒山咲が虐めの加害者だったことだろうな。虐めていた側がいつの間にか虐められるっていう話しはたまに聞くけど、まさかそれで自殺までするなんて……」
「それもそうなんですけど……」
妙に煮え切らない鈴音。
何かを口ごもっている様子だった。
「どうした? 何かあるなら教えてくれ」
「その、大門寺の言っていた飛鳥ちゃんが咲さんにバケツに入った水をかけていたって話ですけど。今の時系列なら、その行動を否定できないんですよ」
「……確かに。その問題があったな」
というか一番大切な部分だ。俺たちは飛鳥が虐めの加害者になっていないことを証明するために情報を集めに来たのに。
黒山の証言が正しいと、飛鳥は黒山咲に本当に虐めを行った可能性も十分にある。
いや、むしろ復讐っていう動機がある分その可能性を強めてしまった。
「やっぱり、最後は飛鳥ちゃんに聞かないとわかりませんね」
「最悪はな。大門寺が見たっていう場面の経緯を知れれば良いんだが……」
やはり、こうなってしまうのか。
飛鳥になるべく勘づかれないように事を運んでいきたかったけれど、ここまで手詰まってしまったら本人の協力なしには厳しい部分がある。
出来ることなら、トラウマを抉るような真似をしたくはないのだけれど背に腹は変えられない……。
どうしたものかと俺たちが頭を悩ませていると。
「ちょ、やめてください! 突然何ですか!?」
「っ!?」
知覧の叫び声が聞こえたので咄嗟に声の方向を向くと、見たことのない少女が黒山の手を引いて公園の入り口に足早に移動していた。
知覧はベンチから立ち上がり慌ててその後を追っている。
「これ、まずいんじゃないですか!?」
「ああ! 急ぐぞ!」
俺たちは走って三人に近づく。
黒山はおろおろして完全に状況に混乱していた。
「おい、お前! 何のつもりか知らないが、その手を離せ!」
着ている制服からして黒山と同じ中学のその生徒は、俺が少し厳しめに声をかけても動じた様子がなかった。
むしろ目を細めて、蔑んだような視線を向けてくる。
「あら、何のつもりかですって? 中学生の女の子をよってたかって囲んで、怪しい話をしていたお前たちに返したい台詞ね」
肩下まで伸びている黒髪ロングで、モデル顔負けの顔立ちから飛び出したのはどこぞの女王様のような乱暴な口調だった。どこか人を小馬鹿にしている感じもある。
「そ、そうですね。私たちは少しそちらの燈子さんにお聞きしたいことがありまして……」
「お前は見ていた感じ途中で呼ばれた部外者よね。黙ってなさい」
「部外者!? あうう……、確かに話の収集つける為にだけ呼ばれたのは少し不満でしたけど。お茶大好きキャラが生かされた場面もそうないですし……」
「そうだったの!? ごめん千夜子ちゃん!」
「お前はずっとテンション高いわね。コミュニケーション手段が、それだけしかないのかしら?」
「はぐう!?」
鈴音と知覧が大ダメージをくらった。
た、確かに知覧の扱いは最近頼れる姉貴みたいな感じになってたし、鈴音はテンションと勢いで生きている部分も多いけど……。
それにしても言いすぎだ。
「おい中学生。あまり図に乗るな、一応俺たちは高校生だ。初対面なら敬語を使うんだな」
「あら、見た感じお前はこの中で一番出来が悪そうね。敬語を要求するなら敬う点を教えてくれるかしら?」
「そ、そりゃあ、あれだ。こう、勉強できるとか?」
「そう。私は全国模試でも一桁クラスの成績よ」
「な!? えーっと、運動できるーとか?」
「プロ並みに?」
「なわけあるか。まあ、学年では上の方だと……」
「じゃあ敬うに値しないわ。井の中の蛙とはこのことね」
「ひどい!」
突然現れたこの毒舌女は何なんだ!?
会話する人全員に最初から抜き身の刃を構えているように付け入る隙がない。
黒山はそんな女の態度を見ておろおろしているだけだし。
「というかお前は誰なんだよ……。まずは名前を、俺は山元優作だ!」
確実に人に、尋ねる時は自分からと言われそうだったので、咄嗟に名乗りを上げた。
理由はそこまでないのだけれど、何故かそんな気がする。今までの話し方、というのも関係しているがそれ以上に脳が反射的にそうしなければ不味いと判断したかのようだった。
目の前の少女とはもちろん初対面だ。こんな奴に会っていたら忘れるはずがない。
それでも、何故だろう。
どこかで見覚えのある見覚えのない少女。そんな矛盾した印象を持ってしまうのは。
「よろしい。最低限の礼儀はあるようね」
今の質問には満足したようで少女は黒髪を手でなびかせ、俺と視線を合わせる。年下とはいえ、ここまでの美少女と目を合わせれば少しは緊張しそうだが、生憎そこまで意識を向けられなかった。
久しぶり。
そんな、不思議な感情で溢れていたから。
「私の名前は如月友華。中学三年で自他共に認める天才よ。ひれ伏しなさい、ホモサピエンス」
少女は一周回って馬鹿みたいな事を堂々とした振る舞いで言ってのけた。




