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幸福に生きたい不幸なあなたへ  作者: 木鳥
三章・飛鳥
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   歪んだ正義②

「黒山。お前の姉さんと、飛鳥。二人はどんな関係だったのか教えて貰ってもいいか? 飛鳥は本当に虐めをしていたのか?」


 逸る気持ちから捲し立てるように質問してしまう。

 黒山はそれに少し戸惑ったが、俺たちの様子から本気で真実を知ろうとしていることを感じ取ってくれたのか直ぐに答えてくれた。


 大門寺は飛鳥が虐めをしていたと言っていた。

 俺たちは飛鳥が虐めなんてしていないと信じている。


 黒山の一言でその対立している意見に結論が出されるため、生唾を飲む思いで見守っていた。

 そして。その結論は。


「飛鳥さんは、虐めに関わっていましたよ」

「……え?」


 鈴音から漏れたのはすっとんきょうな音。

 俺や知覧は、予想外の答えに絶句するしかなかった。


 飛鳥が、関わっていただって……?


 喉に息が詰まるような、そんな感覚に襲われる。


 信じられない何故なら飛鳥はそんなことをする奴ではないからだってもしそうなら俺が今まで接していた飛鳥という人間は大きな歪みのようなものを抱えている自分が過去にしていた行動を忘れて都合のいいように解釈して俺たちに隠していたということになる――。


 思考の海に錯乱したように溺れる。自分だけではどれだけもがいても引きずりこまれるだけのゲシュタルト崩壊にも似た現象に陥る。


 しかし、次の一言で状況は一変した。

 というか、ごった返していた思考が完全に白紙に戻ってしまったのだ。


「誤解しないでください。飛鳥さんは被害者なんです。……お姉ちゃんが、飛鳥さんを虐めていました。三年で転校する直前まで、ずっと」

 

 考えもしなかった、ある意味での最悪な答えが返ってきたから。



ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 飛鳥が虐めをされていた側。

 被害者側であった。

 その事実が心臓にナイフを突き刺すような刺激を加え、様々なパターンを考えていた筈の思考を完全に真っ白になる。


「お姉ちゃんは、虐めの加害者側でした。飛鳥さんのことをずっと都合のいい道具みたいに使っていて、パシリや暴言を吐いたりして端から見ても明らかにいじりを越えていたんです」

「ま、待ってくれ! それだとおかしいことがある、なんでお前の姉さんが自殺したんだ!? 普通は逆だろうが!」

「優作!」

「あ、ああ。悪い……」


 鈴音から厳しく睨まれる。勢いでも言って良いことと悪いことがあった。


「お姉ちゃんは大親友と言いながら飛鳥さんを虐め、そして最後には逆に飛鳥さんを可哀想と思った他の人から仲間外れにされたんです。その辺りから学校にも行かなくなったので、たぶん原因はそこにあるかと思います」

「つまり最初は虐める側でしたが、最終的にはやりすぎて周りから疎まれてしまった、そういうことですか?」

「はい。それがお姉ちゃんが自殺した理由だと思います。ある日家で鬱病用に貰っていて睡眠薬を大量に飲んで、私たちが帰った頃には亡くなっていたんです」


 黒山は気分が悪いのか、頭を抱えて項垂れる。


「もういいよ! 無理に話さなくても!」

「いえ、あと少し話させてください。お姉ちゃんの自殺が公に出なかったのは、そういった背景をお父さんたちもわかっていたからなんです。納得できる理由じゃありませんが、泣き寝入りするしか、なかったんです。……だってお姉ちゃんは! 色んな人に同じような苦しみを与えていたんですから!」

「黒山!」


 自分の体を抱き抱えて過呼吸気味に前屈みになった黒山に近づこうとすると、俺より先に真横にいた知覧が介抱を始めた。


「大丈夫ですよ。話してくれてありがとうございます。これに息してくださいね。今日はもう落ち着きましょう、よく頑張ってくれました」


 落ち着いた柔らかいトーンで黒山の背中を擦る。鞄から取り出したレジ袋を口に当てて、呼吸のペースを整えさせていた。


「妙に慣れているな……」

「ええ。慣れてますから」


 知覧のことも気になったが、今は黒山から得た情報を整理するのが先だ。


「鈴音、少しこっちに」

「う、うん。わかった」


 流石に近くで話すのは酷なので、ベンチから離れて公園の遊具に近づく。遊んでいる子供もいなかったのは幸いだ。

 ブランコの支柱に手を置いて、情報を整理する。その前に。


「今の話、嘘をついてると思ったか?」

「いえ。演技であそこまで出来ませんよ。見た感じ包み隠さず燈子ちゃんは知っていることを話してくれていたと思います。どうしたんです急に?」

「大門寺の親戚ってことは、もしかしたらグルの可能性もある。混乱させるための嘘を混ぜて話しているかもしれないだろ」

「ええ……。流石の私もドン引きですよ。もうちょっと人信じましょう?」


 ともかく俺も黒山が嘘を吐いているようには見えなかったから、今は話が真実だと信じて進めよう。


「おっほん。黒山の話だと、飛鳥が虐めをしていなかったっていうのは本当だよな」

「まあ、そうじゃないと困りますよ。その点は予想通りで良かったんですけど……」


 難しそうに顔をしかめる。

 俺も似たような表情になっているかもしれない。


 大門寺の復讐は、誰に対してのものなんだ?

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