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幸福に生きたい不幸なあなたへ  作者: 木鳥
三章・飛鳥
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   疑惑③

「そう。大門寺の誤解を解くための一番のヒントを持っていそうな子が結構近くにいたんだよ。明日にでも探しに行ってみない?」

「でかした孝宏! 偶には役に立つんだな!」


 どうやら孝宏は今回の飛鳥と大門寺のいざこざを間近で見ていたのもあってか、今までにないほどにやる気に満ち溢れているようだ。


 普段こそ怠けてばかりだが、悔しいけど単純な優秀さだったら俺は孝宏に勝てる要素なんて殆どない程にはこの男は天才肌。その本領が今になって発揮されたというわけだ。


「えーおっほん! それじゃあ、飛鳥ちゃんが選挙に受かるようにオカ研全員で大門寺を倒そー!」

「「「おー!」」」


 聞く人が聞けば誤解を招くような言い回しをする鈴音だったけれど、あれよあれよと話が進んでいくものだからすっかり興奮気味の俺たちは元気よくそれに同調した。


「な、何で物騒な話し合いをしてるんですか!?」


 珍しく部室に顔を出そうとしていた顧問の串木野先生に思いっきり誤解されたのは、当然の流れだったと思う。



――――――――――――――――――――――――



 その日のオカ研は時間もいいくらいだったので、串木野先生をなだめたところで解散となった。

 僕は今、優作たちと別れて一人校舎を歩いている。


 帰り道が違うといっても校門前くらいまでは一緒に帰るんだけれど、教室に忘れ物をしていたのに気づいたから他の人たちには帰ってもらった。


 その道中。

 いつものように鼻歌で適当なリズムを奏でていると突然後ろから声がかけられる。


「もう下校の時刻だぞ。斉場」


 背後から放課後誰もいない校舎でかけられるなら女子の声がよかったんだけど、声の主はおっさんじみた低い声を発していたので女子ではない。


 振り向くとそこには特徴的な禿げ頭が秋の夕日で黄土色に輝いているおっさんが立っていた。


「ん? 校長。何か用事っすか?」


 禿げ頭のおっさんといえばうちの学校では校長くらいだ。一番年をとった用務員のおじさんでも白髪をふさふさに生やしているんだから。

 おまけに年中スーツを着ているので、学校でもよく目立つ。


「用事、という程ではないのだが。貴様の姿を見かけたからな。立場上声をかけても不自然ではないだろう?」

「ええ……。立場的にはそうっすけど、校長がそれしてたら何か僕の中のイメージと合わないっす。堅物なおっさんって感じなんで」

「はは。少しは遠慮して物を言え」

「どうせ誰もいないんですし、別にいいじゃないっすか」


 珍しくご機嫌だ。

 普段はあまり表情が変わらないから、昭和の野球漫画の頑固おやじとか言われているのに。こんな姿写真で撮ったら話題になりそうだ。

 それこそ飛鳥ちゃんの噂が無くなるくらいには。

 って、流石にそこまでのものではないか。


「機嫌が良いんすね」

「まあな。貴様が思った以上に変わりをしっかりとやってくれそうだったもので、感心したところだ」

「……そっすか」


 本当にこの人は確信を突くのが上手いというかなんというか。

 あまり人に見られたくないような、自分の本心を見透かされているようで厄介だ。

 こんなところでおっさんと立ち話するのも時間の無駄なので、軽くお辞儀して別れよう。


「ま、今日はもう帰るんで。さよならー」

「ああ。……悪いな」

「……」


 去り際に校長が発した言葉には妙な重みがあった。


 今日は朝から飛鳥ちゃんと大門寺の修羅場に遭遇したり、その他の時間は情報集めをしたりと忙しい一日だ。

 最後に校長と話したせいで一気に疲れが解放されたのか、どっと脱力感に襲われる。


「とほほ。飛鳥ちゃんがいないと大変だなあ。何だかんだみんなの手綱を握ってたわけだし」


 自分の決めたことだけれど、普段は省エネ不真面目人間である僕には一日とはいえ比較的真面目な作業をしていたら重労働だ。


「ま、出来る限りは頑張りますけどねー」


 背伸びして肩の骨をぽきぽきと鳴らす。

 人から何かを任されるのがこんなに大変だとは思わなかった。


「本当、厄介ごとばっかり残してくれたよ。……友華ちゃん」


 誰に言うでもなく。誰かに向けた独り言を校舎に残した。

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