表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幸福に生きたい不幸なあなたへ  作者: 木鳥
三章・飛鳥
131/243

   疑惑②

「俺はふざけてないけどな」


 孝宏が少し真面目なトーンで話を切り出す。

 今は部長席でなく机を挟んでソファに座った鈴音と、申し訳なさそうに俺から目を剃らしていたアリスもこくりと頷いた。


「その、最初に気になったんだけど、飛鳥が昔虐めをしてたっていうのは本当なのかな?」


 手を挙げてアリスが疑問を口にしたとき、鈴音が複雑そうに顔をしかめた。

 鈴音は小学生の頃虐めにあっていたから、今回の件にはどういった立場をとればいいのか悩んでいるんだろう。

 飛鳥が虐めをしていたことが確定したら、鈴音をこの問題に関わらせるのはあまりにも酷なので俺から止めることにしよう。


「わからないんだ。あいつとは四年で一緒になったから、その前はあまり接点がないんだ」

「何となくどんな人だったとかはわかるのか?」

「まあ、全く喋ったことないわけじゃないけれどそうだな……。今とあまり変わらない気がする。少し周りより大人びていて、勉強も運動も出来てた」


 飛鳥は小学生の頃からクラス委員などの役について、行事にも積極的に取り組むタイプだった。

 かといって、腹黒いわけでもなくどちらかといえば裏表はないほうなので未だに飛鳥が虐めをしていたなんて信じられない。


「うーんと、じゃあ飛鳥ちゃんは大門寺に誤解されてるってことなのかな?」


 ムムムと口をへの字に曲げながら、鈴音が俺たち全員の考えを言葉にしてくれる。 

 今の段階だとそうとしか考えられない。

 あの飛鳥が、他の人に虐めをしていたなんてそんな姿は想像すら出来ない。むしろ虐めを見たらビシッと注意しそうなものだ。


「飛鳥は、あんまり意地悪するタイプじゃないしね。中のいい人に冗談は言うけど、あいてが嫌がるまではやらないよ」

「僕もそう思う。鈴音ちゃんの言う通り、大門寺の誤解の可能性が高い。だから――」


 孝宏がスマホを取り出して指で少しフリック操作をする。

 そして、一枚の写真を俺たちに見せてきた。真横に座っていて見にくかったので、俺は少し机の方に体を倒した。

 何人かの女子が身を寄せて撮っている写真だった。人差し指と親指を交差させて流行りのハートマークなんかも作っている。


「この写真は。孝宏の元カノ?」

「SNSのプロフィールだね。可愛い女の子だけど妹さん?」

「お前そういうのがタイプなのか?」

「うん、皆まずは人の話を聞こうね」


 孝宏が画面を少しスクロールすると写真は別なものに切り替わる。

 今度は先ほどの写真に写っていた一人の女子が単体でカメラにピースを向けている。どことなく慣れていなさそうなぎこちない表情だけど。


「この子は黒山燈子(とうこ)。大門寺が話に出していた咲って子の妹だよ」


 瞬間その場の皆が息を飲んだ。

 この写真に写っている人物が飛鳥のせいで自殺した少女の妹。その可能性が少しでもあると思うと、楽観的に眺めるなんて出来ない。


「斉場。この写真どうしたの?」

「今日授業中にこそこそ調べてみたんだよ。小学生の自殺なら何かしら報道されたりしてないかなって。これといって記事は見つからなかったんだけど、黒山咲って生徒の俳句が入選したみたいな記事はあってね。コメントで妹がアイディアをくれましたなんて書いてたから、探ってみたら案の定見つけられたって感じ」

「お前ネットとか得意だったのか……」

「今回は偶々ね。それよりもさ」


 孝宏が写真の一部。

 黒山咲の妹が来ている制服をズームする。その制服には見覚えがあった。

 確かこれは……。


「駅で偶にこの制服見るね。えっと確か……」

「中学の制服だ! 森川中の! 一緒に住んでる子に、ここ通ってる人がいるから間違いないよ!」


 鈴音が席を立ちあがって興奮気味に口にする。

 どうやらその妹とやらは思いのほか近くに住んでいたらしい。大門寺の話では転校したと聞いていたので、遠く離れた場所にいるのかと思っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ