四十話・疑惑
放課後。
飛鳥は結局言葉通り今日の学校を休んでしまった。
そして、その元凶でもある大門寺は普通にクラスでいつも通りの振る舞いをしていたので、一日中ぞわぞわするよくわからない気持ちだ。
飛鳥は今朝の貼り紙の件もあるため、学校を休んでしまったのは完全に悪手になり一部の生徒の間からあの紙に書かれていた内容は事実なのではないかという憶測が飛び始めている。
校門前だけではなく学校内にも何か所か人目につく場所に大門寺が仕込んでいたようで、俺たちの予想以上に情報は拡散されていたらしい。それで当の本人が欠席すれば、証拠の有無に関係なく多少は疑心暗鬼になってしまうとは思う。
大変な事だ。一体どうやって行動したものかわからない。
でも――。
「――そうだろアリス? だから俺は何も悪くないんだよ」
「そう。それは凄いね。鈴音」
「はいはい。重り増やすねー」
女子二人に囲まれて拷問されている今の状況はもっとわからない!
「頼む! やめてくれ!」
「山元が悪いんだよ。飛鳥にあんな顔させるなんて」
「ほんとです! 一体どんな事をやらかしたんですか!」
アリスと鈴音が厳しい顔で見下ろしてくる。
今俺は部室で拘束されて机の横の床に正座させられている。背中をロープで木の四角い棒に固定され太ももの上に重いレンガが積まれていく。
教科書で見たことある江戸時代の拷問まがいの事をされていた。
「ぎゃあああ! 足が潰れる!」
「飛鳥に何したのか正直に言ってよ。今ならあと少し重り増やすだけで許すから」
「許してないだろそれ!?」
「優作が飛鳥ちゃんを泣かしたのが悪いんですよ! 今回は本気で傷ついていました!」
「だから違うんだって! というか鈴音、素が出てるぞ。いつものお馬鹿キャラはどうした?」
「重り追加しますね」
「失言でしたあ!」
どうやら今朝の一件で俺が犯人扱いされているらしい。
酷い、誤解にも程がある。
でもその話をしようとしても、既に怒りゲージマックスの二人は聞く耳を持ってくれなかった。
冤罪って……こうして生まれるんだな。
俺が一つの真理に気づきかけたとき、勢いよく部室のドアが開けられた。
「お疲れ――って、おわあ! 何この状況!?」
入ってきたのは孝宏だ。
部室が拷問部屋になっているのを見て驚いている。
でも、でかした! こいつならある程度の状況を把握しているし、何とか弁護してくれる筈だ!
期待を込めた眼差しで心の友を見つめる。
頼む! 助けろ!
孝宏は俺に視線を合わせた後、ゆっくり目を細め――ニヤリと気色悪い笑顔を浮かべた。あ、これヤバいやつだ。
「はあ、だから僕はやめろと言ったのに」
「頭を抱えるな! ち、違うんだ! これは孝宏のアメリカンジョークで」
「わかってる。それなら私たちもアメリカンな返しをしないとね」
「思いっきり日本の拷問だけどな――すみません!」
重りを一個追加された。
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「ま、そういうわけで今回の犯人は大門寺なんだ。流石に優作もこんないたずらはしないよ」
「……だ、だよねー。私は知ってたよ!」
「う、うん。私も知ってた。山元はそんな人じゃないよね!」
あれから数分。
暴虐の限りを尽くされ、心身ともに真っ白な灰になった俺の前で孝宏がようやくことの顛末を話してくれた。
「……もう、誰も信じない」
「ご、ごめん、早とちりでした!」
「何でも言うこと聞くから!」
孝宏以外の二人が頭を下げてきた。
そこまでされると怒るに怒れない。
未だに口笛を吹いてそ知らぬ顔をしている馬鹿は後で同じことをしてやろう。それで今回の誤解は帳消しでいいや。
「ま、おふざけはここまでにして今回は少し真面目に考えようか」
孝宏が急に本題に入ったので、俺もこれ以上話を続けるのはやめにする。