思わぬ強敵③
「そんなことより大丈夫なの? 大門寺が相手ってかなりやばいんじゃん」
孝宏が不安を口にする。
俺たちは今まで飛鳥の生徒会選挙に不安を抱いていなかった。立候補すれば会長の席を確実に手にすると思っていたし、それは過大評価でもなく事実だ。
しかし、大門寺が相手だと話は違ってくる。
ドМの変態だけれど、あいつの人望の厚さは本物だ。それこそ飛鳥と肩を並べる程度には。
男子は大門寺、女子は飛鳥といった感じで投票も二分化すると思う。
この学校で飛鳥に唯一匹敵できるのが、大門寺だったんだ。
生徒会なんて興味なさそうなのに、なんで今になって急に行動を起こしたんだよ。
「まあ、正直思ってたよりは苦労しそうね。大門寺になら負けても全然おかしくないし」
「落ち着いてるな……」
「慌てても取り消してくれないでしょ。だったらどっしり構えて、正攻法で倒すわよ。今の時点だったら私の方が少し有利だし」
俺たちの気持ちとは裏腹に当事者である飛鳥はそれこそ安心立命。落ち着き払った様子だ。
「んー? 飛鳥ちゃんがそう言うのならそうなのかも」
「俺たちの焦りすぎだったか……」
少し動揺しすぎだったかもしれないので一度大きく息を吐いた。
本人がここまでマイペースだと大門寺が突然の参加を伝えてきたとはいえ、選挙もどうにかなりそうだ。
「そうよ。それに皆にここまで手伝ってもらってるのよ。負けるわけにはいかないでしょ」
「飛鳥ちゃん……。僕のこと好きなの?」
「どうしてそうなる」
「好きか嫌いかなら嫌い」
「ごはあ!」
謎の思考回路の男が地面に倒れた。
飛鳥はその姿を見て可笑しそうに笑うと、すぐにパソコンの作業に戻ってしまう。
いけない。折角その他の手伝いを引き受けたのに、本人がその分大目に作業をしては疲労を減らすっていう最初の目的が達成できない。
ここは何としても一緒に帰ってもらおう。
「もう下校時刻だぞ。帰らないのか?」
「あと少しで終わりそうだから、一気にやっちゃいたいの」
「次期生徒会長が早速校則破りなんてな。面白い学校になりそうだよ」
「むう。あんたも口だけは立派になったわね」
「背も伸びただろ」
「私からしたらいつまでも子供みたいなもんよ」
「幼馴染マウントなのか? それ」
二人して軽口を叩きながら校門へと向かっていった。
アリスと鈴音は今日は自分の担当部活が終わったら帰ると言ってたし、珍しく飛鳥と二人での下校になる。部室で倒れた孝宏は知らん。明日の朝にでも発見されるだろう。
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秋になると日が落ちるのも早くなるので、夏休み明けという文字に反して周囲は既にかなり暗い。
星が見えるほどではないけれど、さっきすれ違ったランニングをしていたおっさんが蛍光シートを体に巻いているくらいには赤暗い。
学校を出てからは特にお互い話題もないので会話することなく歩く。
他の女子とだったら気まずいけれど、飛鳥とはこのくらいの距離間でも何も感じない。
小学生の頃から一緒で関わりも多かったから慣れてしまったのだろう。
カラスの鳴き声が鼓膜を刺激して、夜を運んでくる冷たい風が肌を撫でる。
秋は夕暮れ、なんて枕草子で言ってたけど確かに秋の夕方は季節の変わり目を感じるし夏と比べても変わった部分が多いのでその変化に意識が向いていく。
道路わきに植えられた木々はまだ緑の装飾を纏っているけど、これももうじき見れなくなる。様々な命が芽吹き育ち加わっていく夏から、それらが枯れて消失する冬になる。
誕生と消滅。
その循環の中間にあるのが秋って季節なんだと思う。
「ね、優作」
不意に飛鳥が話しかけてきた。
横を歩きながら視線を合わせず、名前を呼ばないと誰に話しかけたのかわからないほどの自然な流れで。
「どうした? 告白でもするのか?」
「ちっがうわよ。――私、選挙で勝てると思う?」




