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幸福に生きたい不幸なあなたへ  作者: 木鳥
三章・飛鳥
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   思わぬ強敵②

「それはそうと、この反応をされているってことはお前の過去はバレてるのか?」


 孝宏は怪我で空手を引退してしまった事をまるで黒歴史のように考えているから、自分の過去が知られることを好ましく思っていない。

 それなのに嫌に真面目な雰囲気で教えているのは少し妙だ。


「ああ、流石に空手部の連中にはとっくの昔に気づかれてるよ。でもまあ、うちの空手部の連中は口が堅い奴らだから。今でもどこかに漏らされたような事は聞いてないんだ」

「今回の部活はその恩返しなのか?」

「ま、それもあるね。できれば女子のいる部活がよかったけど」


 歯を見せながら冗談っぽく笑う。

 普段はふざけた奴だけれど、意外と人一倍情に厚い。未だに掴みきれない部分があって、クラゲみたいにふよふよした行動ばかりするからマイナスイメージの方が大きいが。


「そうか。二人にも見習ってほしいな」

「どゆこと?」

「なんでもない」

「はっは! 珍しい二人がいるな!」


 うっかり口を滑らせてしまった時、タイミングよく大門寺が話しかけてきた。


「僕はずっといただろ」

「部活に集中していて気づかなかったんだ。今日はとても気持ちよく投げてもらっていてな」

「もういい! それ以上喋るな!」


 何か変な性癖を口にしようとしていたので咄嗟に制止した。

 大門寺も孝宏も基本的な運動神経はずば抜けているけれど、どちらもモテないのは性格のせいだろう。


「それで、優作は部活の手伝い終わってここに来たの?」

「ああ。てっきりお前が逃げ出してると思ってたけど」

「はっは! 部活の手伝いとは感心だな! ボランティアか?」

「飛鳥ちゃんの手伝いだよ。生徒会選挙なのに、余計な雑用をいっぱい引き受けてたらしくて」


 孝宏が大門寺の質問に若干呆れたように答えていると、大門寺はその内容を知っていたかのように頷いた。

 いや、知っていたんだろう。

 飛鳥が生徒会選挙に出ることはこの学校の生徒なら殆どが事前に知っていることだし、大門寺は飛鳥の人柄についても俺たち同様よく知っている。

 オカ研がこんな活動をしている時点で前後関係は察しがついていたはず。


「そうなのか。案の定というか、相変わらずだな」


 呆れたように大門寺は笑った。


「お前たちも飛鳥の体調には気をかけていてくれ。同じ部活の仲間として一番身近にいるだろうしな」

「そのつもりだよ。大門寺も妙に気にかけるんだな?」

「当たり前だ! 張り合いがなくなるだろう!」


 大門寺の口からは完全に予想していなかった言葉が出てくる。

 てっきり友達だろうが! とか言うかと思ってたら、張り合いだって?

 それじゃあまるで、大門寺が飛鳥と敵対しているみたいな言い分だ。


「大門寺。その言い方だとお前が生徒会選挙に出るみたいだぞ」

「まったく、ややこしい事を言わないでほしいね」


 俺と孝宏で大門寺の冗談を笑う。


「いや、だから。俺も出るぞ、生徒会選挙。お前ら候補者リスト見てないのか?」

「「え!?」」

「がっはっは! その様子だと見てないようだな! 大門寺に清き一票をよろしく頼むぞ!」



――――――――――――――――――――――――



「飛鳥いるかー!」

「大変だよ飛鳥ちゃん!」

「うるっさい! 集中して作業してたのに急に何!?」


 孝宏と一緒に動揺したままオカ研の部室に入る。

 中でソファに座り、机に置いたパソコンをいじっていた飛鳥が驚いて飛び跳ねた。

 これまで静かな部屋で黙々と作業していた飛鳥にとっては、突然大声で話しかけられたら驚くのも無理はない。


 図書館にいたら、たまにくっそうるさい不良みたいな奴が入ってきて不快な気持ちになるのと同じ感じかもしれない。

 あ、俺も不良って呼ばれてたな。そんな行動してないのに。

 授業バックレるくらい誰でもするだろうよ。


「大門寺が生徒会選挙に出るって!」

「知ってるわよ。え、逆に知らなかったの?」

「プリントで配ってたんだろ? 何で知ってると思うんだよ」

「そんなの多分貰って直ぐに捨てたよ」

「あんたらねえ……」


 疲労のせいだろうか。

 飛鳥が頭を抱えて項垂れた。

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