三十八話・思わぬ強敵
「はあ、疲れた……」
最近あった体育祭並みの疲労が、放課後だけで蓄積された。
おかしい。他のメンバーが部活を手伝っているのか見に行っただけなのに……。
料理研究会の部員からしつこく追われたので足もくたくた。靴に鉛でも詰まっているのではないかと思う程だ。
「最後は、孝宏か。名前だけでも気が重くなるな」
比較的真面目なアリスや鈴音であの様なのだ。普段から不真面目な男が真っ当に部活の手伝いをしているわけがない。
最悪逃げ出して、どこかで時間を潰している可能性だって考えられる。
体育館の横を通り抜けて、その奥にある武道館に足を運ぶ。
体育館、武道館、そしてグラウンド。この三つの場所は隣接するように存在している。
体育館ではバレー部やバスケ部、卓球部が狭そうにスペースを取り合いながら活動していて、確か武道館では柔道部と空手部がちょうど真ん中で区切るように場所を確保しているはずだ。
孝宏はその中で空手部に向かっている。
他の部活には女子が入っていたので、いらん下心を出させないために飛鳥がこれだけは譲れないと主張してきたのだ。
なので部活の手伝いと聞いて、一瞬の迷いもなく女子バレー部に向かおうとしていた男は男子だけの空手部に向かわされた。
当然乗り気ではない。
「さてと、いるのかあいつは?」
武道館に近づくと柔道部と空手部の声がもう聞こえてくる。
掛け声や気合を入れる声だ。
普通に入っていったら邪魔になりそうなので、開いているドアから顔だけ覗かせる。
「ふん! ふん! ふん!」
「ああ、もう違うって。そんな突きじゃ肩痛めるよ。引く動作は良いから足の重心を少し考えてみてよ」
「お、おっす!」
「孝宏さん! 型を見てもらってもいいですか?」
「今日はもう終わりだ。また今度な、みんなもう補強トレーニングに入っていいよ。時間内に片付けまでしたいから。あと、お前ら全員今日言ったこと忘れるなよ? 技術練習は絶対に最初にやって、フォームの確認した後にだるい練習をするんだぞ」
「「はい!」」
「一番真面目じゃねえか!」
「どわあ! って、優作かよ。いたんだ」
気づいたら身を乗り出して孝宏の前に迫ってしまっていた。あまりにも現実離れした光景に我を忘れていたのだ。明日は槍でも降るのか!?
俺の予想を大幅に斜めに裏切って、孝宏はさながら外部コーチのような振る舞いで空手部に指導をしていた。
何なら今までの中で一番まともな部活の助っ人をしている……。
「何で帰ってないんだ!?」
「え、僕のイメージって何なの……。ほら空手については少しわかるしね」
「あ、そうだったな」
そういえばこいつは中学空手の全国覇者だったな。普段の行動がただのド変態なので完全に記憶から消し去っていた。
「にしてもお前が真剣な顔で教えているなんてな。今日一で驚いたよ」
「はいはい、お世辞はいいよ。どうせ鈴音ちゃんやアリスちゃんの方が上手くやってるでしょ」
「あ、おう」
あいつらの名誉のために、今だけは嘘をつこう。